名もなき世界の何でも屋 Ⅱ

第一話 夜更かしはお開きね

 

「それで〜……オカマと一緒に〜……ハイネが作ってくれた、この事務所を……」
 
 スズネが鳥人族ちょうじんぞくの姉妹。
 姉のサキと妹のモトに何でも屋ができた話をしていた。
 姉妹の姿は鳥人に近い姿ではなく、人の姿だ。
「夜更かしをしよー!」と言い出したスズネによって、私たちの何でも屋ができた経緯けいいを話していた。
 スズネと姉妹が向かい合わせのソファーに座っている。
 その場には丸椅子に座る私もいる訳で。

「思ったとおり、起きてられないみたいね」

 今し方、話しながらに舟をぐスズネ。
 スズネは基本的に早寝早起きの生活リズムではあるが、本人が意識してそうしているのではない。
 夜に起きてられないからそうなっているだけなのだ。
 だから、深夜帯の依頼は受けられなかったりもする。

「スズネさん、良かったらもう寝て頂いてよろしいですよ?」
「姉さんの言うとおり、充分にお話は聞かせて頂きましたし」

 サキとモトもねむたげに話そうとしているスズネを気遣って、スズネの両側から歩み寄っていた。
 眠気覚ましと淹れたコーヒーもスズネの睡魔すいまには勝てなかったようだ。

「そんなわけには……ここからアタシたちの血も滲むほどの〜、依頼の日々が……」
「そんな日々だったら、今まさに血塗ちまみれで死んじゃってるわね。話を盛らないでちょうだい」

 コップをテーブルに置いて、スズネへと歩み寄った。
 近寄った時には鳥人族の姉妹に支えられ、前屈みに項垂れていた。
 支えられているスズネは規則正しい寝息を立て始めていた。

「スズネも寝たから、夜更かしはお開きね」

 寝息を立てるスズネを運んでいく。
 便宜上べんぎじょう、お姫様だっこと言われる形で。
 されてる方はと言えば、口を開けてよだれれてきている有様ではあるけど。

「二人もついてきてちょうだい。スズネの部屋にもう一つベッドがあるからせまいだろうけど、二人で……」

 と鳥人族の二人へ言ったのだが、返事もついてくる足音もなかった。
 振り返ると私の話を聞かずにコソコソ話をしている。
 内容は聞こえないが、この二人なら悪巧わるだくみというわけでも無さそうな気はする。

「聞いてるかしら?」
「は、はい! ですがその、シグ……さんにお聞きしたいことがありまして……」

 みょうな所でよどんだな。

「何かしら?」
「その、黒い髪を紅く染めて、魔術を使ったというのは本当なのでしょうか?」

 それを聞いて、私はモトを見た。
 目をらされたけれど。
 私の髪の毛は魔力を秘めており、長ければ長い程に保有魔力量が増える事から伸ばしている。
 それを隠す為にオカマをえんじているに過ぎない。
 サキが言った事柄はモトの前でやむおえなくやった事だった。
 モトには誰にも言わないようにと言っておいたはずなのだが、さっきのコソコソ話で伝えたのだろう。
 目を合わそうとしないわね。

「妹が約束を破った事は申し訳ありません。ですが、私たちの探し物とはその髪。つまりは、その髪を持つ者を探す事にあったのです」
「私はあの髪を束単位で拾っただけよ。王都には多くの種族が集まる場所だし、偶然拾ったの。口外しないように言ったのは貴重な髪にたかられたくなかったから」

 もっともらしいうそをついたつもりだが、サキは目をつむり首を横に振った。

「その髪の話はあくまで曖昧あいまいなものを確信にしただけなのです」

 黙っているとサキは私の目を真面目な顔で、真っ直ぐに迷いなく見つめてきた。

「黒い髪に黒い眼。髪を紅く染めし出立いでたち亜人種あじんしゅの王。私たちが探していたのは間違いなく、シグさん。亜人種の王の生き残りの貴方です」
「……まさか、容姿までも似てるとはね。でも、私はそんな大した者ではないわ。人違いよ。そんなことよりもこの扉を開けてもらえないかしら」
「もう一つあるのです」

 両手がふさがっているせいでスズネの寝室への扉を開けられない。
 それをいい事になおも続けてきた。

「先の一件で、もう私が鳥人族の族長の娘である事は知っておいででしょう。長きに渡り、王へと忠誠ちゅうせいちかってきたこの身に流れる血が教えてくれるのです」

 サキと顔を合わせた時の事を思い出していた。
 あの時の妙な間はそのせいか。

つかえるべき王の御前ごぜんであると、ですから……」
「とにかく、わかったわ。とりあえず、そういう事にしておきましょう。もう夜中よ。明後日には鳥人族の里へ旅立つなら、今日はもう寝た方がいいわ」

 振り返る事なく、ただスズネの部屋の扉を見ていた。
 
「で、ですがっ!」
「これ以上、続けると言うなら今回の依頼は受けられない。いくらお金をもうとも断らせてもらうわ。約束も破るような依頼主はこっちとしても願い下げよ」
 
 サキが食い下がってきたが、直ぐに口を閉じた。

「この話を終わりにするなら、申し訳ないけど、この扉を開けてくれるかしら。私の腕もそろそろ限界だったりするのよ?」

 振り返って、引きる顔と震える腕を姉妹に見せた。
 少し情けないけど、穏便おんびんに済ませたくもあったから仕方ない。

「す、すみません! 直ぐに!」
「ね、姉さん、いいの!?」
「今日の所はやめにしておきます。またお話しさせてくださいませ、シグ様」
「……その呼び方は相手が私一人だけの時にしてちょうだい。スズネを巻き込みたくないの」

 だらしない顔をしている相棒へ目をやりつつ言った。

「わかりました〜、私はモトとは違って口が固いですから」
「モトだって、姉さん相手でなければ約束を守ってました!」
「ふふふ、仕方ない事でしたもんね〜」
「姉さんはそうやってモトのことをダシに自分をよく見せようとするからモトは怒るんですよ!」

 そんな二人のやり取りは放っておいて、スズネをベッドへと寝かせる。
 むみゃむにゃと口を動かして、軽く寝返りを打った。
 そこに薄めの掛け布団をかけておく。
 どうせ、暑くなってぎそうな気もするけど、一応。

「二人も狭いかもしれないけど、そこのベッドで寝てちょうだい」

 声をかけると姉妹は黙って、またコソコソ話をする。
 その間に部屋の蝋燭ろうそくへ火魔法で火を灯しておく。
 少し嫌な予感がするわね。

「言っておくけど、私の部屋はダメよ」
「そ、そんな事は考えてませんよ〜」
「で、ですですっ」
「その返事が物語ってるわよ。さ、蝋燭は立てて置いたから寝なさい。寝る時には消しなさいね」

 扉の傍に立って、入るように促すと姉妹は渋々と入って行った。

「「おやすみなさいませ、シグ様」」
「お、おやすみなさい」

 言い返してから扉を閉めた。
 言われ慣れていないこともあり、言い淀んでしまった。
 
「やっぱりやめてもらおうかしら」

 そう独りごちるくらいには気になってしまう。
 自分の部屋に入り、扉に開かないように魔法をかけた。
 万が一、寝ている間に忍び込まれても面倒だ。
 スズネが夜更かししようと言わなければ、こうもややこしくならなかった気がする。
 まさか、亜人種の族長にあんな感覚があったとは知らなかった。
 スズネが寝てから切り出した辺りは良い判断だった。
 そこには有り難さを感じずにはいられない。

(にしても、どうしたものかしら……)

 バレてしまっては仕方ない。
 あの姉妹にはうまくやってもらう他ないだろう。
 サキなら隠していたい事も伝わっているだろうから、こちらから話さなくてもいい。
 むしろ、話せばまた問い詰められそうだ。

(今日の所は寝てしまおう)

 そう思い目を閉じた。

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