第三十一話 まだまだぁ〜!

 

「ついにこの時がやってまいりました! 鳥籠神鳥祭とりかごしんちょうさいも本日で最終日! 決勝戦を執り行いま〜すっ!! 司会はもはやお馴染みとなっております、ニワノ・コケコッコーが務めますっ!」

 高らかと宣言された決勝戦という言葉に、観客達は歓声がラグユラシル大森林に響き渡る。
 観客の入りは鳥籠神鳥祭の中でも一番である。
 その熱気を感じたいのか籠の底面の下にも鳥人族が居るほどだ。

「この決勝戦では、族長の息子であるチュウヒ様がついに出場です! この鳥籠神鳥祭のためにお一人で里の警備を担当していたとの事でシード枠となっていたとの事でした! 先日は三方向のサラマンダーを一手に引き受け、残らず倒したとの事でした! 本日は大いにそのお力を発揮して頂きましょう!」

 コケコッコーの声に応えるように歓声が上がった。

「チュウヒ様〜!」
「他国の何でも屋なんてやっつけちまえ!」
「鳥人族の強さ、見せてくれぇ〜!」

 チュウヒ派の声もちらほらと聞こえてきていた。

「対するは!! 我ら鳥人族の度肝どぎもを抜くような戦いを繰り広げてきた他国の何でも屋!! 準々決勝のワゲハシ様とは流石に苦戦しておりましたが、他の三戦に至ってはあぶなげなく勝ちを納めております! 今日の決勝戦、チュウヒ様とどう戦うのか、楽しみですっ!!」

 またしても、コケコッコーの声に応えるように歓声が上がった。

「ここまで来たなら、チュウヒ様も倒しちまえー!」
「他国の強さ、見せてくれ〜!」
「スズネ嬢! 思いっきり暴れてくれー!」
「シグ殿の作戦を拝見はいけんさせて頂きましょう」

 何でも屋派の声が聞こえてきていた。

「鳥籠神鳥祭、今日以上に盛り上がる日はないと言えるほどに歓声が上がっております! では、皆様がお待ちかね!! 選手の入場ですっ!!」

 鳥籠を隙間すきまなく取り囲む観客。
 選手入場の宣言で二箇所に隙間が生まれる。
 その二箇所から同じタイミングで片側に一人の鳥人族。
 もう片方には二人の鳥人族とぶら下がる二人の人間の姿があった。
 生唾なまつばむ音さえ聞こえてしまえそうなほどに観客達は静かに鳥籠へと選手が入場するのを待つ。

「左翼! 我が鳥人族の若頭わかがしら! チュウヒ様っ!!」

 少し早く入場したチュウヒへと歓声が一気に上がり。

「右翼! 予想だにしない大健闘! 他国の何でも屋! スズネ選手! シグ選手!」
 
 二人が籠の底に降り立った時には、さらに歓声が上がった。
 スズネは変わらずに両手で歓声に応えた。
 昨日の疲労は見る影もないようだ。
 シグは少しスズネの様子を見てから、籠の縁に立っているチュウヒへと視線を向けた。
 視線はそのままで杖をホルダーから出した。

「スズネ、調子は大丈夫なのよね?」
「大丈夫! アイツをボコボコにするためにここまで勝ってきたんだし、身体がちょっとだるいくらいなんとかなるって!」

 シグに声をかけられて、スズネはトンファーの持ち手をポケットから出して握った。
 ちなみに、トンファーの持ち手は短パンに急拵きゅうごしらえで専用のポケットをモトに作ってもらった。
 二人とも臨戦態勢である。
 眉を吊り上げ、今にも飛びかかりそうな面持ちでスズネはチュウヒを見ていた。
 
「私を相手に随分とやる気だな。まだ数日前の事を怒っているのか?」
「もちろん、それもあるね。今は私情の方が強いけど」
「全く。気が短いのか、長いのか、はっきりしたらどうだ……まぁ、いい。鳥籠神鳥祭は鳥人族として伝統ある祭だ。その記録に『他国の何でも屋』と記されるのは私としては面白くない。むしろ、目障りとさえいえる」
「だからなんだっての?」
「負けるのは君たちだと言っているのさ」
「はぁ?」
「挑発に乗ってどうするの。相手の実力は私たちよりも上かもしれないのよ。息を合わせて戦わないと」
「わかってるけど……絶対ボコす」

 シグはスズネの言葉にため息を吐いた。
 もはや、自分の言葉は届いていないのだと悟ったようだ。
 気を取り直すために杖を構え直した。

「さぁ、選手達の準備も整ったようですっ! 決勝戦の結果や如何に!! レディー!!」

『コケ! コッコォー!!』

 全試合とも司会の鳴き声が試合開始の合図であったが、その声には疲れも澱みもなく、ラグユラシル大森林に響き渡った。
 その鳴き声を聞いた瞬間にスズネは肉体強化を自身にかけ、チュウヒは二人に向かって飛び始めた。

「まずは一発!」

 スズネは踏み込み。

「お見舞いしてやるっ!」

 向かってくるチュウヒの前へと一気に間合いを詰めた。
 スズネは勢いそのままにトンファーで殴りかかるも。

「ふん」

 チュウヒはスズネの速さに驚く事はなかった。
 一度羽ばたいてから翼をたたみ、身体を捻って難なく避けた。

「なっ!」
「そんな攻撃、当たるわけないだろ」

 チュウヒはスズネの相手をせずに、シグへと狙いを絞った。
 いや、最初からシグが狙いであったと思える身のこなしであった。
 チュウヒはさらに速度を上げてシグへと攻撃を仕掛ける。
 嘴での攻撃をしてくると考えたシグは右側へと避けた。
 が、チュウヒはその動きを見て、すぐさま翼での攻撃に転じていた。
 翼に風魔法をまとわせたのだ。
 シグも風魔法が使われた事を感じ取り、両腕を前に出し。

『ウィメント』

 風魔法を打ち消し、両腕で翼を受け流した。
 チュウヒは魔法が打ち消されたのを感じ取りながらシグの横を飛び去っていく。

「それがワゲハシが言っていた魔法を打ち消す魔法か。厄介なものだ」
「……なんのことかしら?」
「……まぁ、いいっ!」
「呑気に話してんじゃないってのっ!!」

 ゆるりと上昇していこうとするチュウヒへスズネがまた一気に間合いを詰めた。
 トンファーを持ち替えて、棒の部分を拳よりも前に出して、両側から挟み込むような攻撃。
 シグから離れようとしたチュウヒの背後を取った。
 チュウヒは羽ばたいたが、ほんの少しスズネが速く両翼に軽く攻撃が当たった。
 羽ばたいていた事で直撃とまではいかずに避けられた。

「っ! やるじゃないか」
「まだまだぁ〜!」

 当たらないだろう事も考えていたスズネはすぐに側面へ着地して、飛び跳ねるようにチュウヒを追撃する。
 軽く当たった攻撃が効いているのか、そこまで高く飛べていないチュウヒも迎撃のために鉤爪を構えた。

「っ! 二人とも、避けなさいっ!」

 いきなりのシグの声にチュウヒとスズネは驚いた。
 いや、正確には迫ってくるものに対してだろう。
 二人に向かって炎のついた木が倒れかかって来ていた。

「「っ!!」」

 スズネもチュウヒも互いの行動に注力するあまり視野がせばまり、気が付かなかった。

「こうなったら……いや、間に合わな」

 シグはふところから髪の毛を取り出すが、間に合いそうにない事を感じ取り、手が止まってしまう。
 炎を纏った木が倒れ込んでくるのは早く、籠の中にいる三人は助からない。
 そんな窮地きゅうち豪風ごうふうが吹いた。
 観客の鳥人族を守りながら、炎を纏った木だけを吹き飛ばす。
 魔力の流れからシグは族長であるロフク達のいる方へと見た。
 ロフクは大きな翼を羽ばたかせ、サキとモトは翼を広げて、ロフクが生み出した豪風を操っている。

「皆の者、里に戻るのじゃっ!」
「ここは私達で抑えますので早く!」
「兄様! みんなの避難誘導をお願いいたします!」

 炎はさっきの木だけではなく、森へと広がりつつあるようで赤く染まり出していた。
 チュウヒは騒ぎの中、スズネを背で受け止めそのまま乗せるとシグのすぐ近くへと降ろさせた。
 
「えっと、と、とりあえず、ありがとう」
「……勝負はお預けだ。お前達も避難しろ!」
「わかったわ」

 降ろすとすぐにチュウヒは飛び立って行った。
 入れ違いのように二人を運んでくれる鳥人族二人が来た。

「お二人とも早く!」

 スズネとシグも促されるままに鳥人族の鉤爪に捕まり、里へと避難していった。

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