第三十七話 もう時間ね

 

 魔族とサラマンダーの襲撃は大森林の大火事を引き起こした。
 鳥人族の負傷者は出たが、幸いなことに死人は出なかった。
 シグの雨魔法により、魔族とサラマンダーの弱体化。
 チュウヒの独断単独での魔族との戦闘。
 その二つが大きく被害を広げなかったこともあるが……。
 語らなくてはならないのは、ここには居ない一人の貢献人。
 魔族を倒した後の爆発を抑えた鳥人族の活躍こそがこのラグユラシル大森林と鳥人族の里を救ったと言えるだろう。
 
「今のは……」
『なんでかは、わかりません……とにかく、ヌシが爆発したとしか……』

 ヌシが爆発四散した後、スズネを守るように抱きかかえるシグ。
 スズネとシグを背に飛ぶサキは爆発した場所を眺めていた。
 辺りはヌシの肉や沼の泥でギスの木々が汚れていた。
 ヌシの体が半分沼に入っていたおかげで、被害は少なかったものの木によっては折れたり、傷が入ったものがあった。

『三人とも無事ですか~?』
『大丈夫よ。スズネさんは寝てしまっているけど』
『よかったです』

 飛んでいたサキに並ぶようにモトも近づいてきた。

「モトさん、ヌシは魔族を食べると爆発するって習性があったりするのかしら?」
『さすがにそんな習性はないと思うんですが……』

 気が動転どうてんしているのか、シグからそんな限定的な習性しゅうせいを聞かれて困惑こんわくするモトだが。

『ただ、魔族の生命が終える時に余波よはがあるというのは聞いたことがありますね』
「その余波が今回は爆発だったということね?」

―その通り。

 声は突然に響いてきた。
 三人の声でも、スズネの声でもない。

「誰?」
―驚かせてしまったわね、私はこっちよ。
 
 その声はヌシの死骸から聞こえてきたのだ。
 死骸から淡く黄色い光の粒たちが三人の目線の高さまで上がってくると少しずつ姿を浮かび上がらせた。

―魔族は魔力を生命力として生きている存在。魔族が死を迎えるとその生命力が魔力として解き放たれ生前に使われた術の影響を受けて発散されるの。
「……今回の魔族は炎の魔法を使っていたのが暴走して、爆発が起きたってことね」
―そういうことになるわね。さすがは、アグゼミド王の末裔様まつえいさまというところかしら。
「失念していたわ。師匠に魔族の事を教えてもらって……なんで、私の事を!?」

 シグが驚くと、その反応が嬉しいのか笑い声が響いた。

―ふふ、なんでって。貴方が赤ん坊の時に顔を見ているからよ。随分と大きくなられましたね、ユグシア王子。

 光の粒がある一人の鳥人族の姿を浮かび上がらせていた。
 その姿を見て、サキとモトもまた驚きの声を上げた。

『お母様?』
『……お母様がなんで?』
―面白い反応がもう二つ、ふふ。まあ、驚くに決まってるわね。一番驚いたのは私だけど。

 光の粒が浮かび上がらせたのはサキとモトの母親。 
 先代の鳥人族族長であるテバであった。
 テバの説明によると……
 十五年前の戦いで今回の魔族によって致命傷を受けてヌシに食べられそうになった時。
 どこからか光の玉が飛んできて、一緒に飲み込まれそうになったところで瞬く間に光った。
 テバもこれで死んだと思い、あきらめていると次に目を開けた時には沼の中に居たそうだ。
 しかも、体はヌシの体だった。
 テバは乗り移るかのようにヌシの体を自在に動かせるようになり、魔族を飲み込んだのも魔族の特性を知っていたからこそ飲み込んだと。

―もうヌシの体で生きていくのはまっぴらごめんだったの。どうせ死ぬならみんなを助けるためにも死にたかったし、いいタイミングだってね? そこの寝てるお嬢さんを二回も食べそうになったのは申し訳なかったかな。起きたら、私の代わりに謝っといてね。
『お母様』

 光の粒が少しずつ弱くなってきている。
 もう会えなくなるそんな気持ちにさせるのには十分すぎた。

―二人とも、大きくなったわね。十五年間、こっそりと見ていたけれど……面と向かって見るのとではまた違うわ。こうして戦いの場にも出られるようにもなって、私は嬉しい。
『お、かあ、さま』
『お母様っ!』
―泣き虫なのは変わらずね。最後の最後に抱きしめてあげられないお母さんを許してちょうだい。その代わりにあの人から私の秘密を教えてもらう権利をあげるわね。私からは恥ずかしく伝えられないから。

 テバはシグの方を見て、頭を下げた。

―ユグシア王子、この度は誠にありがとうございました。このような姿でお礼を申し上げることをお許しくださいませ。

 シグがゆっくりと頷くと先代の族長も微笑んだ。

―勝手なお願いではありますが、これからも鳥人族を。サキとモトをよろしくお願いいたします。私からはそれだけが心残りです。
「言われなくても、見捨てることはないわ。むしろ、私が見捨てられないか不安なくらい」
―その心配はありません。この度の祭の活躍と戦いのご尽力は皆が知っておりますから。それにサキとモト、ロフクもあなた様を気に入っておいでです。私たち、鳥人族が裏切ることはないと自信を持ってくださいませ。

 テバの言葉を聞いてからサキとモトはシグを見て頭を下げてきた。
 まつ毛の涙はまだ乾ききっていない。

―チュウヒは意地を張っているだけでしょうから、放っておけばよいです。あの子はあの子なりに頑張っていたので横柄おうへいな態度を取ったとしても大目に見て頂きたい。
「わかったわ」

 テバはそれを聞くと口角を上げた。
 ヌシの死骸しがいへ目を向けると、淡い光の粒が何かを運んで来ていた。
 運ばれてきたそれは緑色に光る宝石のついた首飾りだった。

―それは族長の証の首飾りです。紐は魔法加工で伸縮自在。大鳥化だいちょうかしても問題ありません。ロフクに渡してくださいますようお願いします。

 とうとう、光の粒がテバの頭だけを浮かび上がらせなくなっていた。

―もう時間ね。話したいことはまだあるのだけれど、許されないみたい。サキ、モト、愛しているわ。
『私も愛してます』
『モトも、お母様を愛しています』
―ふふ、嬉しいわ。チュウヒとロフクにも愛してるって伝えて。もちろん、鳥人族のみんなにも、ね。

 光の粒は消え去り、テバの声が聞こえてくることもなくなった。
 その後、サキとモトは涙をこらえながら、シグとスズネを背に鳥人族の里へと帰った。
 先にスズネを救護班に面倒を見てもらうことにしてからロフクのもとへ。
 シグがロフクへと族長の首飾りを渡したときに、サキとモトの二人は泣きついた。
 首飾りと二人が泣きついてきたことでロフクも察しがついたのか、目じりには涙を浮かべ、人の手に変えて二人の頭を撫でた。
 サキとモトの泣く声が聞こえたのか、族長の家からは手当てを受けたチュウヒも出てきて、顔を伏せて涙をこぼしていた。
 しばらく、二人の頭を撫でたロフクは強い眼差しでシグを見た。

「シグ殿……いや、ユグシア王子にお話がございます。どうぞ中へ」

 家の中にいたであろうワゲハシ。
 チュウヒも族長の家の入り口の脇に寄って、シグに。
 ユグシア王子へと道を譲っていた。

「一つだけお願いを聞いてもらって良いかしら」
「なんでございましょう」
「呼び方はシグのままで頼むわ。あと口調も。情けないのだれど、私にはまだ前の名前で呼ばれる程、覚悟ができていないの。申し訳ないけど、頼める?」
「かしこまりました。では、今まで通りで話させてもらいますわい、ほっほっほ」

 ロフクの笑い声にシグは微笑んで、族長の家へと入っていった。

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