第三十話 しぶてぇ~な

 

「頭、後ろから追手が!」
「どうせ俺らには追い付けねぇだろ」
「それが少しずつ追いついて来てるんでやす!」
「なんだと……」

 ラースカは後ろを振り向いて、追手おっての姿を確認して舌打ちをした。

「よりにもよって、早く飛ぶしか頭にない奴らと組みやがったか」
「どうしやしょう?」
「ケツにいる奴が相手してやれ。俺はこれを売りに行く」
「わかりやした……」
「なんだ! まだあんのか?」
「いや、何でもありやせん。野郎ども! 頭を守るぞ!」

 仲間の声掛けに連合の鳥人族は鳴き声で返事をした。
 その鳴き声がこだまして、スズネ達にも聞こえてきた。

「奴ら、何かしてくるみたいだぜ」
「やっつけてくしかないでしょ!」
「待ちなさい、私にいい案があるわ。ハブサヤさん、前に出てもらえるかしら」
「わかりました」
「オカマ、どうするつもり?」
「もう周りのことを気にしなくていいなら、堂々とこれを使ってもいいでしょ?」

 シグはふところから髪の毛を五本ほどまみ出し、魔力を込め始めた。
 髪の毛が魔力に反応して、紅く発光し始める。

「それで一網打尽いちもうだじんってことね! でも、アタシのトンファーの事、忘れてない!?」
「ちゃんと、それも考えてあるわよ」

 紅い発光は相手にも見えており、警戒心を強めていた。

「なんか紅く光ってるぞ?」
「構いやしねぇ! 俺たちは追手を食い止めるぞ!」
「さっきの仕返しをしねぇとな!」

 試合で無様にもきのみを擦り付けられ、退場させられた手下達は警戒心よりも闘争心をたぎらせた。
 身をひるがえして、シグたちへとくちばしを向ける。

『大いなる森林よ、しなやかなるその身をもって、敵を捕らえ給え』

「今、呪文を言い終えてもおせぇーんだよっ!!」
「まずは、お前らからだ!!」

 手下三人の鉤爪がシグとハブサヤをとらえようとした。

『エフュ二・バインティア』

 シグが呪文を詠唱仕切えいしょうしきると、鉤爪は二人を捉えることはなかった。
 捕らえられたのは、襲ってきた三人の方だからだ。

「ぐえ!」
「ばっ! なんだこれ!」
つたからんできやがるっ」

 シグの魔法でラグユラシル大森林のギスの木から一瞬で蔦が伸びて、三人を捕らえ縛り上げたのだ。

「すげぇ! そんな魔法があるなら試合でも」
「何か事情があるから使わなかったんだろう」
「そうか、なんにしてもシグの兄貴すげぇや!」
「早く飛んで! オカマの魔法は時間が短いから追いつかないと!」
「それは僕たち兄弟の見せ場ですね」
「へへ、試合で見せられなかった分、その体で体感してくれよ」
「オカマ! 肉体強化してあげるから踏ん張って!」

 スズネは自身にはもちろん、シグにも補助魔法をかけた。
 兄のハブサヤ、弟のサブハヤは同じタイミングで羽ばたいた。
 すると、飛ぶ速さはさっきまでの比にはならないほどで、周りの景色が吹き飛んだように感じるほどだ。
 
「っ! ……ついてきたのを後悔したくなったわ」
「サキ達より速いかもっ!」

 疾風しっぷう韋駄天いだてんと称されるヤヤ兄弟はひっそりと口角を上げて、ラースカ連合の手下たちを一気に抜き去っていく。
 シグの魔法によって使役された蔦たちももれなく手下たちを縛り上げていった。

「くっ、こんな隠し玉ももってやがるのか!」
「頭、このままじゃっ!」
 
「待てぇ~! この泥棒ガラスっ!!」

 連合もラースカだけとなり、スズネ達もだいぶ近づきつつあった。
 
「馬鹿が、早さ以外にも器用さで逃げりゃいい」

 ラースカは翼をたたみ、一気に急下降をした。

「下に逃げた! アタシたちも下に行かないと」
「やられました」
「速さに乗ると急には方向は変えられねぇんだ」
「はいぃ~っ!? なら、こっからはアタシ一人で行く!」
「おい! スズネ嬢!」

 サブハヤから飛び降りたスズネは落ちながらにラースカを追う。
 シグの蔦たちもラースカを追いかける。

「おいおい! 飛べねぇ人間が無理してんじゃねぇよ! そのまんま、沼に落ちて食われてろ!」

 ラースカは落ちているスズネを笑いながら、翼を広げてさっきの進行方向から左へと向きを変えて逃げていく。

「オカマ! 左側に逃げてるからうまく方向変えて追ってきて!」
 
 返事はないが、蔦の動きはまだある。
 魔法の有効範囲にはいるようだ。
 スズネもラースカを追う蔦を足場に追いかける。

「しぶてぇ~な。いい加減にっ」
「返せぇ〜!!」
 
 追いすがってくるスズネを見てぼやいていると、沼から泥のかたまりが飛んできた。
 ラースカは咄嗟とっさに避け、飛んできた方を見た。
 そこには、沼から牙をのぞかせた生き物が見えたのだ。

「そんなまさかな……」

 そうつぶやいた時には、どっばんっ!と何かが泥をかき分けて這い上がってきた音がしていた。
 そして、ラースカの視界には自分と同じくらいの牙が無数に見えた。
 しかも、右側と左側の両方から。
 つまり、ラースカ自身はまだ閉じられる前の口の中に居ることを意味し、今まさに食われる寸前である。
 ラースカの直下からは生暖かい空気が漂い、赤黒い肉の壁と底の見えない穴があった。
 そんな食われる寸前をスズネも目の当たりにしたが、足を止めずにより蔦から蔦へ飛び移る。
 補助魔法をかけ直してから近場のギスの木の側面に飛び移り、思い切り蹴った。
 姉からもらったトンファーを失うわけにはいかないそんな思いだけで試合でも見せなかった速さで。
 瞬間移動と言ってもいいほどの速さでラースカの鉤爪を胸に抱き、沼のヌシの餌食えじきにならずに飛び抜けた。
 獲物を食うことができなかったヌシは何事もなかったように沼の中へと去っていく。
 そんな姿を視界の端に入れながらにスズネはふと呟いた。

「「あ、着地の事、考えてない」」
 
 あまりの速さに感覚がおかしくなったのか、自分の声が二重に聞こえたのも感じていた。
 だが、トンファーの持ち手が手に触れた時にはどうでもよくなっていた。
 ついでに助けられたラースカは泡を吹いて気絶していたが、それもスズネにとってどうでもよかった。

「「りんねぇ……」」

 沼へと落ちそうになるところをシグの蔦がラースカを捕らえたことで、スズネも助かった。

『蔦よ、我が元へ』

 紅い光が弱まる中、蔦はゆっくりと下降してくるシグたちへと伸びていく。

「スズネ、大丈夫なの?」

 ラースカの右鉤爪を抱き着いたままのスズネは閉じていた目を開いた。

「「オカマ……ありがと」」

 シグはスズネの左目の色が違うことに気づきながらも得体のしれない魔力を感じていた。
 普段のスズネからは感じられない黒いヘドロように濃密な魔力を。

「おっと、あぶねぇ」
「これで一件落着ですね」
「ええ、そうね」
 
 気を失い、脱力するスズネをサブハヤが背で受け止めたやり取りの間にはそんな魔力は感じられなくなっていた。
 普段、スズネの目はオレンジに光るコハクの宝石のようだが、左目だけが違った。
 淡く青みがかっていた。
 見間違えたとは思えない。
 見たことのないオレンジと淡い青のオッドアイ。
 そして、感じたことのない黒いヘドロのように濃密な魔力。
 ヤヤ兄弟に送られるシグは里につくまでそのことばかりを考えていた。
 蔦に捕えられたラースカ連合は警備隊によって里の中にある牢屋ろうやに閉じ込められた。
 ラースカは気がついた時にはひどくおびえていて、しばらくしてから人が変わったように物静かになったとか。
 手下達もリーダーの変わりっぷりに驚いていたが、すこし安堵あんどしたようにも見て取れたらしい。
 スズネはというと戻ってからも、目覚める事はなかった。
 規則正しい寝息を立てていることからシグとサキとモトの三人はそっと寝かしておく事にしたのだった。

 ← 前のページ蓮木ましろの書庫 次のページ → 

 

蓮木ましろのオススメ本



コメント

タイトルとURLをコピーしました