「どうなるかと思ったけど、なんとかなってよかった」
「そうね。サキさんの機転が良かったからよ」
「いえいえ。元はと言えば、私のせいなので」
裏路地からの帰り道、スズネはサキさんを負ぶったまま帰っている。
「族長の娘って、ほんとなの?」
「はい。あまり口外しないようにと言われていたのですが、あの状況でしたので」
「という事は、モトも?」
「はい」
「そんな立場なのに旅に出る事をよく許されたわね。大抵は出るなと口うるさく言われそうなのに」
「少し事情がありまして……」
「それも口外するなって言われてるのね」
「はい。あるかもわからないものを探してるとしか」
「あ、それ。モトも言ってた! どんなものを探してるかは言えないって言われたんだけどね」
「そうなんです。私達がこうして動き回ってるのもダメなのですが、そうも言っていられなくて」
そう言い終わったサキさんは、なぜか私に視線を向けてきた。
裏路地の時といい、どうしたのかしら。
「なに? 私の顔に何かついてる?」
「いえ、なんでもありません」
「また? もしかして、変なものでも食べたんじゃないの?」
「大丈夫だと思いますが……まともに眠れていないので少しぼーっとしてるからかもしれませんね」
「なら、今日はゆっくり寝る事ね。スズネの部屋で良かったら一緒に寝てちょうだい」
「仕方ないな〜。アタシの部屋に二人を招待しようじゃない」
不満そうに言っているが、表情は嬉しそうににやけていた。
サキさんは顔が見えないので申し訳そうに眉をハの字に曲げている。
「何から何まですみません」
「別に構わないわ。さ、着いたわよ。ちょっと待ってちょうだい」
杖を取り出して、扉にかけた魔法を解く。
と言っても、炎魔法で金属を接合していただけの細工だから、修繕魔法ですぐに元に戻るんだけど。
この様子だと、ハイネは私のお願いを聞いてくれていたようだ。
このツケは大きそうね。
「あれ? 今日ってお休みだっけ?」
「ついていくってうるさかったから、無理矢理押し込んだの。モトさんが何かあったらいけないじゃない?」
「妹もお世話になってしまって」
「いいのよ。姉思いのいい子って証拠じゃない」
そう言いながら、扉をゆっくり開くと店内からテバさんが飛び出してきた。
「姉さん!」
「モト、ごめんなさい。心配かけて」
「良いんです。無事で何より……もしかして、足を」
「ええ……怪我してしまいました」
「でも、こうして生きているならよかったです。姉さんに何かあったんじゃないかと探し回ったんですよ」
「お二人から聞きました。本当にごめんなさい」
「何はともあれ、良かった良かった」
「スズネさん、シグさん、ありがとうございます。お二人にご依頼して良かったです」
「サキさんに怪我をさせてしまったけど、見つける事ができて良かったわ。今度はお姉さんを見失わないようにね」
テバさんは涙ぐみながら二回頷いた。
サキさんはそんな妹の頭を撫でていた。
少し涙がこぼれそうにもなっている。
「おかえり。おかげさまで今日はお休み」
店を開いていないのにハイネは疲れを滲ませて、私に向かってぶっきらぼうに言ってきた。
「無理を押し通してごめんなさい。大人しくはなかったみたいね」
「それはもう。気を抜けばすぐに出ようとしてたわ。まぁ、扉の細工のおかげで出れる訳ないでしょうが」
「報酬の分前は少し弾むわ」
「話が早くて助かる」
「ハイネ! そんな事よりサキのケガを治してあげてよ!」
「まったく、なに怪我させてんのよ」
「それはやった奴らに言ってよ。アタシが助ける時はちゃんと守ったんだから」
「はいはい、どこよ……ここね。ちょっとじっとしてなさい」
『暖かな光よ、傷を癒し給え』
ハイネの手と患部の間が光り、赤く腫れていた足首の怪我が治っていった。
それを見ていたサキさんもモトさんも目を丸くしていた。
「すごい……ありがとうございます」
「どういたしまして。スズネ降ろしてあげて、他に痛いところはない?」
スズネがゆっくりとサキさんを降ろすと、サキさんは思い思いに身体を動かした。
「他は大丈夫そうです」
「なら、良かったわ。お大事にね」
「はい」
「ふぅ、やっと楽になった」
「お疲れ様、スズネ」
スズネがサキさんを降ろして、軽く体を伸ばしていると、頭を撫でる手が伸びてきた。
スズネの後ろに紫紺のベールとローブで身を包んだ占い師然とした人が立っている。
「わわ! え、だれ?」
「ワタシよ、スズネ」
その占い師はベール外して、顔を見せた。
そこにはスズネと同じ髪の色をした女性がいた。
リンネさんである。
「リン姉!? え! え! もう忙しくないの!?」
「ええ。やっと一段落したから会いに来たの」
「そうなんだ!! やっと会えた〜! 王都に来たばっかりの時に探したんだよー!」
「ごめんね。ちょうど店じまいにしちゃったからお店も見つからなかったかな」
「え! 店締めちゃったの!? なんで!? もう何でも屋は辞めちゃったの!?」
「ううん、まだやってる。店を閉めたのはここに何でも屋があっても仕方なくなってね」
「そうなんだ〜。リン姉のお店見てみたかったのになぁ」
「ごめんね。でも、そのおかげで裏路地の依頼をスズネに任せる事ができたの。悪いことばかりじゃないわ」
「そうかもだけど〜」
「ふふ、拗ねても可愛いわね、スズネは」
微笑みながら、また頭を撫でている。
「リンネさん」
「あ、シグくん、スズネと一緒に居てくれてありがと。ワタシも安心して、依頼をこなせるわ」
「無理矢理でしたけどね……」
「これからもお願いね」
「私には何もないのかしら?」
いつの間にかカウンターで座り、魔法でグラスに酒を入れるハイネがリンネへと話しかけた。
「ハイネさん、スズネとシグくんがお世話になってます」
「そんなのは良いから、面倒見てる報酬は?」
「ふふ、わかってますよ〜。ハイネさんはせっかちですね。では、これをどうぞ」
話をしながら店に入って行き、みんなが中に入った所で私は扉を閉めた。
リンネさんはローブの中からポーチを取り出して、中をゴソゴソと探り出した。
「リン姉、そのポーチって」
「ふふ、そうスズネとお揃いよ」
そう言い終わる頃に手に大きな布袋を持って、どしゃりと床に置いた。
どう見ても、ポーチの大きさよりも大きい物が出てきた。
ポーチが枕位の大きさで、布袋がベッドの半分大くらいはあるだろう。
ポーチの仕組みが知りたくなるくらい大きく重そうな布袋だ。
「よいしょっと、はい。これがスズネとシグくんの面倒を見てくれている報酬。あと、これからもお願いしますの気持ちを込めて、多めに入れてますから受け取ってあ、もちろん、中身は金貨だから安心してくださいね」
「そんな事だろうと思った……でも、まぁ、これだけもらえるならやってあげるわ」
「ふふ、話が早くて助かります」
「ねぇねぇ! そのポーチをリン姉が持ってるって事はアタシに渡してくれたのって」
「そう! 魔法で姿を変えてたワタシでした〜。だから、間違いなくお揃いだよ」
「そうなんだ! やった! リン姉とお揃いのポーチ!」
ハイネの会話が終わったと思うや否や、スズネは矢継ぎ早にリンネさんに話する。
どれだけ好きなんだか。
「あ、そうだ。スズネ、ワタシとやりとりできる手紙は持ってる?」
「うん、持ってるよ、ほら!」
「はーい、ぼっしゅ〜!」
スズネがポーチから出した手紙をハイネさんは素早く掠め取った。
「えぇ〜! なんで! 返してよ、リン姉!」
「聞いて、スズネ。これからはワタシの力を借りるんじゃなくて、二人の力を借りながら何でも屋として、強くなっていってほしいの」
「うん……」
「まだまだスズネの何でも屋は小さいし、この広い世界の中ではスズネはまだ弱い。これまでみたいにワタシを頼りにしてくれるのは嬉しいけど、それじゃあ、スズネの成長を遅くしちゃうの。何でも屋になった以上、ワタシ達はライバル同士。同業者の手助けをするのは依頼でも仕事でもなく、ただの私情になる。そのせいでワタシが危ない目に遭えば、スズネだって嫌でしょ?」
スズネは黙って頷いた。
「これからも姉妹だけど、仕事の関係上では敵同士にもなるかもしれない。おまけにワタシはスズネよりも強いわ。そんな相手にこの手紙は大きなハンデになる。まぁ、上手く使えば、逆も然りなんだけどね」
また頷くだけだった。
「でもね、スズネ。これだけは覚えていて。ワタシは敵になろうともスズネの味方。敵を欺く為にまずはスズネ、シグくん、ハイネさんも欺こうとするわ。その演技に貴方達も乗っかってくれれば良い。この手紙を燃やすのもその演技の一つ。ワタシはスズネが大好きだもの、本当の意味で裏切ったりしないわ」
人差し指と中指で挟んで持っていた手紙が、激しく燃えた。
煤も残さずに綺麗に燃え尽きた。
「リン姉」
「強くなりなさい、スズネ。これからは自分のために周りの人の為に賢く強く芯のある人になるのよ」
「うん! わかった! がんばるね!」
ハイネさんの言葉をちゃんと理解しているのかはわからないが、ここで茶々を入れるほど無粋ではない。
抱き合っている二人を見ているとハイネさんがこっちにウインクをしてきた。
きっと、スズネの事全般はこれからもよろしくねと言っているのだろう。
勝手な人だけど、何でも屋という家を作ってくれた恩人の頼みなら[[rb:無碍 > むげ]]にするわけにはいかない。
私はそのウインクに肩をすくめた。
「よし。なら、早く二人を休ませてあげないとね。ワタシのせいで[[rb:蚊帳 > かや]]の外になっちゃってるし」
「え? あ! 二人ともごめんね!」
「いえいえ、スズネさんもお姉さんに会えて良かったですね」
「うん、ありがと」
「あら、モト。スズネさんと仲良くなったの?」
「まぁ、少しだけ」
「ふふ、これからもっと仲良くなろ! 今夜はアタシの部屋で寝ることになるし、いっぱい話そうよ!」
「まぁ、それは楽しそう」
「別に構いませんが、程々にしてくださいね。姉さんの体調も気になりますし」
「おけおけ、任せといて」
これは口先だけの返事ね。
「それよりも先に今後の事について話しましょ。サキさんの罰金と私達への報酬の確保の為にね」
「えー! 良いじゃん、明日でも〜」
「ダメよ。期限は明日から一カ月。それまでに罰金を持っていかないといけないんだから」
「私達の村に帰って、お金を持ってくるのが良いと思います。そもそも、私のせいでこうなっていますから父に話せばなんとか」
「そうね。帰るなら私達も同行しましょ」
「え、オカマ……本気で言ってるの?」
「当たり前でしょ。無事に故郷に戻ってもらわないとタダ働きじゃない。そんなの嫌よ。スズネだって報酬は欲しいでしょ?」
「そうだけど……」
「それに無事に送り届ければ、追加で報酬が増えるかもしれないわよ」
「よし! 行こ! 今すぐに!」
「単純過ぎなのよ……今夜は寝ましょ。二人もいろいろと疲れてるでしょうし」
「はい、そうして頂けると助かります」
「そうですね、私もゆっくりと寝たいです」
「それもそっか。なんなら、万全な状態で行きたいし、明日もゆっくりしましょ」
「そうね。旅支度も必要よね」
「よし、決まり! じゃ、二階行こっか。リン姉! アタシ、賢くて強くて芯のある人になれるように頑張るからね!」
「うん。頑張って、スズネならなれるわ」
「ありがと、リン姉も気をつけてね」
「それでは、リンネさんおやすみなさい」
「はーい、スズネの事よろしくね」
私は頷いてからお店の扉を閉めた。
ーーーーーー
「さ、もう用は済んだんでしょ。店を閉めるから帰ってくれる?」
「そんなつれない事、言わないでくださいよ〜」
リンネは、カウンターに金貨を一枚置いた。
「これでお酒一杯くださいな?」
ハイネはその金貨を一瞥して、鼻で笑った。
「私はそんな安い女じゃないわよ」
「ふふ、それは残念。じゃあ、ワタシも帰らせてもらいま〜す」
金貨をポーチに入れて、扉に歩いていく。
「貴女は占いをしない方が良いわね」
「ん? なんでですか?」
「当たり過ぎるからよ。それに占いで未来視の魔法を使うのは御法度よ」
「でも、あれは現時点で可能性の高い未来が見えるだけでそれを選ぶのは当人達だから、占いですよ〜」
店のドアノブに手をつけ、ハイネに背を向けながら話す。
「なら、占い師がその当人に関わるのをやめなきゃね」
「それは無理な相談ですよ。ワタシはスズネが大好きですから。この気持ちは、貴女がシグくんを大事に思うのと同じくらいかもしれません」
「あっそ。さっさと帰りなさいよ、偽占い師」
「はーい。スズネの事はシグくんのついでくらいに面倒見てくださいね〜」
扉を開けて、店を覗き込む体制で小さく手を振るリンネ。
それを塵を払うように手を払うハイネ。
そして、店の扉が閉まった。
ハイネはその扉をしばらく眺めていた。
『生き倒れている人を助けると、長く悩み苦しんできた事が解決するでしょう』
ハイネに勝手に占われた時のことを思い出していた。
あれは間違いなく未来視だった。
そして、その占いがなくても、どうせスズネを助けていただろう。
「本当にそうかしらね? ……まんまとのせられたわ」
今となってはわからないけれど、ハイネは『長く悩み苦しんできた事』を解決できている。
いや、これからもしていくのだろうとグラスの酒を煽った。
昼にカフェを開き、夜にバーを開いて、情報を集める理由。
それは他でもなく、彼を探すためだった。
「ご無事で何よりです……ユグシア王子」
天井を仰ぎ見た瞳から一筋の涙が流れた。
ーーーーーーーー
「さてと! 夜更かし、しよっか!!」
「なんでそうなるのよ」
寝支度を済ませたシグが出てくるなり、スズネは仁王立ちで宣言した。
「ここで初めてお泊まり会するのに、このままで寝ちゃうのはもったいないって」
「二人は疲れてるのよ? それに私も疲れてるわ」
「えー! 良いじゃん、別に! ほら、旅に出るならちゃんと私達のことを知っててもらわないと信用できないでしょ?」
「……なんで、こんな時にまともな事を考えつかんだか」
「なら、お二人が何でも屋になった経緯など、聴かせてもらえますか? サキは物凄く気になります」
「いいよ〜! どっから話そっかな?」
「はぁ〜、私はコーヒーを入れるわ」
「あ、モトは別に大丈夫です」
「私が飲みたいの。ついでで良かったら飲んで」
「遠慮なんてしなくて良いって、もうアタシたち友達だし。アタシは甘いのでお願いね!」
「はいはい、話してなさいよ。二人にも甘いのを淹れるわね」
「ありがとうございます」
サキのお礼の言葉にモトもシグに頭を下げた。
「オカマがアタシのパンを台無しにする所からにしよっかな……」
「なんでよ」
「それは気になりますね、そこからにしましょう」
「モトはどこからでも」
「じゃあ、アタシが何でも屋になりたいって思ったところからにする!」
「もう、好きに話しなさいよ」
スズネは友達になったサキとモトに堂々と語り始める。
シグはコーヒーを淹れながら、口元を綻ばせた。
名もなき世界の何でも屋 Ⅰ 完
あとがき……のようなもの
お久しぶりでございます。蓮木 ましろです。
『名もなき世界の何でも屋』の第一章を書きあげることができました。
こうして、なんとか形にできたのは純粋に嬉しいです。
達成感もありながら、書きあげれた安堵感の方が僕の中では強めに感じています。
これからもきっと安堵感の方が上回ることでしょう。
この作品は『黒狼記』同様、ずっと前から書きたいと考えていた作品であり、人生を通して書き上げようと考えてる作品でもあります。
今後も『名もなき世界の何でも屋』をよろしくお願い致します。
次は『黒狼記』の第二章!!
なんですけど、この作品を書いてる時に創作や執筆について色々と勉強をしまして、お時間を頂こうと考えています。
より面白いものが書けるように色々とやっている最中です。
投稿できる時が来ましたら、Xでのお知らせ、自作ブログで引き続き投稿します。
お暇な時にでも読んでみてくださいませ。
最後に。
物語の途中、四ヶ月も間が空いた当作『名もなき世界の何でも屋』の第一章を最後まで読んで頂きまして、ありがとうございます。
このあとがきを読んでくださっている方にも感謝を。
あ、僕に興味がある方はXでフォローして頂ければ何してるかわかるのでオススメです。
作家アカウントでもある「蓮木 ましろ」で調べて貰えれば出てくるので。
改めまして、読んで頂きありがとうございました。
それでは、次の作品で。

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