第八話 やっぱり先に出てきちゃうよねぇ〜

 

 まりきった天板てんばんのような扉を前に二人は立っていた。
 ここが開くのはもちろん外へ出る時だけ、リンネは敵の迎撃げいげきのために何度か出ているが、シグにとっては両親に放り込まれてから一度も出た事はない。
 の光はリンネと出会った時に浴びたくらいである。

「シグくん、久々の外でしかも初戦闘が自分の命を奪いにきた魔族ってことになるね。少し荷が重いかもしれないけど、ワタシもいるから協力して戦いましょう」
「協力、分かったわ」

 リンネが「守る」ではなく、「協力」と言ってくれたことに気遣いを感じて嬉しくなったシグだが、そうも言ってられない。
 何せ、自分を殺しにきた相手なのだ。
 リンネの言うとおり、実践は初めて。
 リンネからお墨付すみつきはもらっていても、怖いものである。
 震える手を無理に抑えるのではなく、軽く震える手同士で撫で合わせ握り合わせる。
 魔術師に手の震えは禁物。
 狙いがブレてしまえば当たる魔術も当たらない。
 シグは両手を握り合わせて、深呼吸する。
 それでも手の震えは止まりはしなかった。
 震えの止まらない両手をリンネの両手が包んできた。

「大丈夫。戦いになれば、そんなの気にならなくなるわ。殺される恐怖よりもシグくんにとっては外に出ることの方が怖いはずよ。出てしまえばなんてことない。ワタシが認めた弟子はちゃんと強いもの。自信を持ちなさい」
「……はい、師匠」
「まだ敵は遠いから出てすぐに戦闘にはならないけど、防御魔術を張りながら出るわよ」

 シグが頷くのを見て、リンネは片手杖を軽く振るう。
 すると、がこりと何かが外れる音の後に天板のような扉が音を立てながら開き始めた。
 リンネが先行して、シグは後ろからついて行く形で外へ続く階段を登っていく。
 天気は曇っているようで、眩しくはないが、昼間のようで明るかった。
 地下図書館では時計を気にせず、過ごしていたためにシグはどこか違和感を感じてはいた。
 リンネはなんて事のないように防御魔術を張りながら外へと頭を出した。
 リンネが人影を捉えたのか、その方向を見ながら上がって行く。
 シグも防御魔術を張りながら、リンネと同じ方向を見ながら上がって行った。
 視界には城だったものの瓦礫がれきの山が奥に見えていた。
 手前を見れば、そこには民家だったであろう残骸ざんがいが崩れていた。
 骨組みは残っているが、人の気配などありはしなかった。
 視線の真ん中にはゆっくりと歩いてくる人物を捉えている。
 頭から足のくるぶしまでボロボロのローブで姿を隠している。
 ただ、隠しきれていないのは頭の一対の角と尻尾だろうか。
 角はともかく、尻尾は隠せそうなものだが、隠さないのは魔族のポリシーがあるのかもしれない。
 距離はあり、体格は断定できないが、そう大きくはない。
 人の尺度で考えるなら少年くらいの背丈と思える。
 相手は魔族なのだから見た目で判断する事はできないが。
 
「距離があるからと言って、防御魔法をいちゃダメよ」
「分かってるわ」

•――•――•
 
「やっぱり先に出てきちゃうよねぇ〜。待ち伏せて、二人まとめて殺したかったのになぁ」

 巻き上がった風でフード部分が外れて、口角の上がった三日月のような笑みが見えた。
 目は笑っておらずに二人を見定めて、こう続けた。

「ああ〜ぁ。劣等種れっとうしゅの返り血、浴びないように気をつけないとなぁ。汚れるのはヤなんだよぉ〜?」

 ここで初めて、魔族の目は笑い、薄気味悪い満面の笑みとなった。

•――•――•
 
「…………あぁ〜」

 目を覚ましては、何度か瞬きをして、目を閉じた。
 随分と懐かしい夢を見た。
 最後の最後があんなのを思い出したもんだから目が覚めてしまった。
 最悪な目覚めだ。
 寝起きだというのに思わず声も出た。
 珍しく夢を見たという事は眠れていたという事で。
 自分にしては珍しかった。

「よりにもよって、最後があれなんて……あら?」

 手を使って起きあがろうとしたが、手が動かせない。
 そもそも腕が重くて動かせない。
 少しずつ意識がはっきりしてくると、腕が重いのではなく、何かにしがみつかれているのだと分かった。
 しかも、暖かくて柔らかさも感じる。
 さらには、右腕だけでなく、左腕もである。

「なんで二人が添い寝してるのかしら……」

 寝たままに左右を見ると鳥人族の姉妹が両側にいた。
 右にサキ、左にモトである。
 右側はベッドの都合上、窓際で壁がすぐそばにある。
 私の身体と壁に挟まれ、狭いはずなのにサキは器用に眠っている。
 モトは落ちないようになのか、少しばかり腕にしがみつく力が強い気がした。
 二人とも私の独り言でも起きる気配がない。
 ぐっすりと心地よさそうに眠っている。

(これが私の合意なら微笑ましく思えたのかもしれないけど)

 寝る前、ドアに魔法で鍵を掛けたはずだ。
 だとすれば、なんらかの方法で鍵を開けて入ってきたのだろう。
 しかも、勝手に二人して添い寝をしてくるのはどういう了見だろうか。

(あの話のせいで余計な気を回したのでしょうけど、そんな気はないというのに。まだ力を本当の意味で使いこなせてないんだから)

 昨日の夜に話されたサキの話、私が王家の生き残りである事。
 この姉妹の確信は真実であるものの、まだ誰かの上に立てるほどの力量も覚悟もない。
 夢で見た過去の記憶。
 なんとか戦いに勝てたのはリンネのおかげであることが大きい。
 ここまで生き残れたのはコソコソと見つからないように逃げ回っていたからである。
 血筋が王家であっても、王国のかたきから逃げる生き残りなんかに誰もついて来るわけがない。
 二人の添い寝も一種の気の迷いだ。
 力量も覚悟もなく、生きるだけに必死な私など放っておけばいいのだ。

(そう、放っておけば良いのに)

 そんなことを思っていると、隣の部屋からガタリと音がした。
 どうやら、スズネが起きたらしい。
 いや、ちょっと待って。

「二人とも起きなさい! このままじゃ、スズネが来て有らぬ誤解を!」

 私のその言葉は意味をなさなかった。
 ドアは無情にも開け放たれたのだ。
 
「オカマ! 大変なんだけど! サキとモトが居な……い〜?」
「お、おはよ、スズネ。これは誤解が起きてると思うからちょっと落ち着いて欲しいんだけど〜?」
「なんですか? 今の音は〜?」
「あら、私としたことがシグ……さんよりも寝坊してしまうなんて」

 スズネのドアを蹴破りそうな音にやっと、姉妹が起きた。
 事すでに遅しとはこの事であり、もちろんのこと。

「オカマ〜!! オカマ野郎のくせにサキとモトを侍らして寝るなんて良い度胸ね! このケダモノ! そこ変わりなさい! 昨日の夜はアタシが二人と一緒に寝るはずだったのにぃ〜!!」
「それもそれでどうなの?」

 思っていたよりも違う方向の怒りを向けられ、しばらく、事情を聞いてはくれなかった。
 その後、ハイネさんが作ってくれた朝ごはんを少しばかりあげると機嫌を直して、話を聞いてくれたのだった。

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