第十七話 二丁上がり!

 

 こじ開けられた扉に押されて、オカマは地面に転がった。
 受け身をとって、すぐに敵の方へと向き直した。
 開けられた扉からは武器を持った敵がゾロゾロと出てきた。
 手に持っている武器は剣や槍、短剣、片手杖と各々が様々な武器を持っている。
 そんな八人の敵がオカマを取り囲んで逃げられないようにした。

「このコソ泥が! 盗んだ物を出せ! さもなくば、殺す!」

 オカマの正面で剣を構える男がそう叫んだ。
 言われた当の本人は、ゆっくり立ち上がりながら、杖を取り出した。

「やれるものならどうぞ? そのかわり盗んだ物は私の血で汚れて、使い物にならなくなるけどね?」
「この野郎……人様のものを盗んでおきながら何をほざいてやがる!」
「お生憎あいにく。私は私のためにやってるだけなの。盗んだんじゃなく、もともと私の物だっただけよ。だから、諦めてくれないかしら?」
「そんな理屈が通るか! もういい! やっちまえ!!」
 
 左側から取り囲んでいた三人が声を上げながら武器を振り上げて、オカマへ攻撃しようとしてきた時である。
 走ってくる足音と姿に気づいたのもこのタイミングだった。

「お、おい、待って! 避けろ!」
「「「え?」」」

「おりゃ〜!!!」

 スズネはサイドテールを揺らしながら、ものすごいスピードで駆け寄った。
 その勢いのままにオカマを攻撃しようとした男どもをドロップキックで三人まとめて蹴り飛ばしたのだ。

「なっ!」
「んっ!」
「とぉーっ!」

 蹴り飛ばされた男たちはオカマの目の前から姿を消し、その代わりにスズネがりた。

「おし! 三人まとめて倒せた! ほら、他もやっちゃうよ!」
「あ、貴女あなたっ! 言われなくても、そのつもりよ」
「こいつの仲間か……おい! 何をボケっとしてる! 早くやっちまえ、ぶはっ!!」
「ごめんなさいね、これでも多少は腕に覚えがあるから。そこでのびててちょうだい」

 仲間が居たとは思わなかった敵のリーダーは戸惑いながらも他の仲間に声をかけた。
 だが、武器を構え直す前にオカマの右ストレートを顔面にもらい、後ろに倒れた。
 リーダーの横にいた敵は、オカマに気を取られている間にスズネが叩きのめした。
 
「今回のは貸しだからね! ホントならアンタみたいなオカマを助けたりしないんだから」
「それはどうも、覚えてたら返してあげるわ」
「いいや! もう返してもらうって決めてるから逃げないでね!」

 スズネとオカマが敵の目の前で話していると敵は少しマゴつきながらも。

「何を二人で話してやがる!」
「仲間割れか?」
「ちょうどいいやっちまうぞ!」

 残り四人になった敵が体勢を取り直して、間合いを詰めてきた。

「と、敵さんは待ってくれなさそうね。見失わないように連いてきなさい。そしたら、話聞いてあげるわ」
「言われなくても!」

 スズネは話しながらトンファーの持ち手を取り出して、構えていた。
 そして、駆け出してきた二人の敵を相手に。
 オカマは後ろで様子を伺うようで動かなかった。
 敵の一人がスズネに向かって、振りかぶって剣を振り下ろしてきた。
 大ぶりな動作にスズネは難なくと避け、敵もその動きを予測していたようですぐさまスズネへと刃を向けた。
 スズネは軽いステップでその刃も避けきって、ガラ空きになった敵の懐に入って、トンファーの殴打を腹に三発、最後に横っ腹に回し蹴り入れ、敵は吹き飛んだ。

「ほい! 一丁上がり!」
「死ねや〜!」
「ふぇ?」

 スズネの戦っている背後にいつの間にかもう一人の敵が回り込んでいたようで野蛮な短剣が隙だらけのスズネに襲い掛かる。

「させないわよ」
辻風つじかぜよ、敵の手に吹きたまえ』
「っ! あの野郎! ぐっ、ぶはっ!」
「危なかった〜。オカマ、やるじゃん! その杖、飾りじゃなかったんだね」

 オカマの魔法で鋭い風が生み出され、敵の手に多数の切り傷が出来上がった。
 その痛みで敵は短剣を落として、オカマに悪態あくたいをついている隙にスズネがすかさず、溝落みぞおちと首裏に攻撃を入れて、敵を倒した。
 スズネは思わず、オカマの動きに親指を立てて誉めた。

「まだ敵は居るのよ、気を抜かないで」
「大丈夫、ちゃんとわかってるって」

 振り返ると敵の槍使いが間合いまで詰め寄って来ており、槍でスズネを突き刺そうとしていた。
 スズネはその突きを捌いて、相手に攻撃を加えようとするがその槍使いもスズネの攻撃を予測して、距離を取った。
 槍使いは他の敵よりも腕が立つ様でスズネの動きが見えている。

「これだけ、さわがしくやってるんだ。仲間も気づいて、ここに来る。時間を稼がせてもらうぞ」
「へぇ、頭いいね。ここの人たちは馬鹿しかいないと思ってたけど」
「俺もここには少し飽き飽きしてたんだ……お前らを捕まえた功績で少しはこのだめから抜き出てやる」
「私たちを捕まえたからってそんな変わらないと思うけどね〜。それにそんなことにはならないと思うし、ね!」

 スズネは、足に魔力を込めて、石畳をった。
 一気に槍使いとの間合いを詰める。
 槍使いもその動きを少しは予測していたようで、槍で応戦するが、スズネはその払ってきた槍を避けた。

「ぐっ、ぶっ、がはぁっ!」
 
『火の玉よ、敵を焼き飛ばせ』
「って、どわはっ!」

 槍使いのトドメに両トンファーで腹を強く突き飛ばした。
 吹き飛んだ槍使いが後ろにいた魔法使いを巻き込んで、一緒に倒した形になったのだ。
 ちょうど魔法をとなえていたせいで、ぶつかる直前でやっと気がついたようだが、時はすでに遅かった。
 
「おっとぉ! でも、倒したし、二丁上がり!」

 二人まとめて、倒す事ができたスズネは嬉しそうに勝ち誇っていた。
 敵の魔法使いが唱えた火の玉がスズネに飛んできた。
 それをスズネはギリギリ避け、スズネには当たらなかった。

「ほら、突っ立ってないで。早く逃げるわよ! って、リボンが」
「へ? あつっ! ちょちょちょ! あー、リン姉からもらったリボンが〜!」
「そうね。でも、髪下ろしてても平気でしょ?」
「やだ! アタシはあのリボンと髪型じゃないと頑張れない!」
「そんなの知らないわよ、勝手にしなさいな」

 オカマは走り出そうとしたが、スズネに足を強く掴まれて二の足を踏んだ。
 火の玉を避けたのはよかったが、スズネのリボンに当たってしまったようで結び目まで焼けてしまった。
 地べたに落ちたリボンは燃えている。
 スズネはそれを見ながら、「リン姉からもらったリボン〜」となげいた。

(この隙に逃げようかしらね……)
「って、ちょっと離してくれないかしら?」
「やだ! どうにかしてくれないとテコでも動かない!」
「なんで、私が……あー、仕方ないわね」

 オカマは自分のバンダナを外して、その端を縦長に破いた。
 その破いた布をスズネに渡した。

「これで結びなさい」
「えー、なんかボロボロ〜」
「使わないなら返しなさい。私もこのバンダナは大事なものなんだから」
「……なら、いい! これで結ぶ!」
「早くしなさい。敵も待ってくれないわよ」

 スズネはいつものように髪を束ねると、もらったバンダナの切れ端で髪を結った。

「おっけー! できた!」
「遅いのよ。早くここからおさらばしないと……ほら、また来たわよ……」
「ありゃ、もう起きたんだ〜。早いね〜」

 オカマを先頭に走り出した二人だったが、その先にはスズネが縛り上げた四人が立っていた。
 だが、なわも口の布も取れていない状況。
 それに服をやぶかれた敵に関しては、くしゃみをして、鼻水も垂らしていた。
 四人ともスズネに対してモゴモゴと何か言っているようだったが、口の布のせいでなんで言っているのかはわからなかった。

「あれ、貴方が?」
「そそ、ちょっとバタバタしちゃって。あ、ちょうどいいや」
「ちょっ! 何してんのよ!」
「良いから、じっとしててよ! アンタにはパンの恨みがあるんだからその身体で償いなさい!」
「なに、訳がわからない事言って! ひっ!」
「食べ物のうらみをおもいしれー!!」
「ぎゃーー!!!」

 オカマはスズネに持ち上げられ、そのまま縛られた四人へと投げ飛ばされた。
 四人もそんなことをしてくるとは思っていなかったので、避けようにも慌てるばかりで為す術なく、投げ飛ばされたオカマを身体で受け止めた。
 その勢いで後ろに倒れ込み、背中と後頭部を強く打って、四人とも気絶した。仲良く、泡を吹いている

「ふー! スッキリした! ほら、早く起きて! 逃げないとでしょ」
「どの口が言ってるのかしら……」

 四人の男たちの上から立ち上がり、頭に手を添えながら、スズネにぼやくオカマは少し怒っているように見えた。
 が、すぐさまその事は流される。

「おいっ!! 仲間がやられてるぞ!」
「きっとアイツらだ!! 追いかけろ!!」

「やば、オカマが騒ぐから気づかれたじゃん!」
「誰のせいとかはこの際、どうでも良いわよ! 逃げましょ!」

 スズネとオカマは曲がり角を曲がった。

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