第十六話 松明見えちゃってんじゃん!

 

「おい、あれ」
「あぁ。何かあったな」

 甲高い音がした後に変な声も聞こえ、目の前の曲がり角に二本の松明たいまつが出てきた。
 さっきから話し声が聞こえてきていたことを考えると仲間が帰ってきていたのだろう。
 だとすると、その曲がり角で何者かに襲われた可能性がある。
 見張りの二人組は槍を構えながらゆっくりと曲がり角へと歩いていく。

・――・――・――・

「って、松明が見えちゃってるじゃん!! って事は〜……」

 そーっと曲がり角の先へ耳を澄ませてみると、足音が聞こえてきた。

「おい! 誰がいるのか!」

 見張りの一人が曲がり角の先へと声をかけてきた。

(ですよね〜! しかも、こっちきてる〜! どうしよ、もう一回上の方にしがみつく? いやいや、流石にバレるよね〜、さっきも色々とギリギリだったし〜)

 スズネは曲がり角に放り投げられた松明に気づいて、壁に身を預けながら座り込んでいた。
 右手を見ると赤く腫れている。
 慌ててたとはいえ、素手で蝋燭を握ったのは間違いだった。
 いざとなれば、トンファーを握れるが決定打を打つには厳しそうである。

(こうなったら、不意をついてやるっきゃない! 相手は一人っぽいし、やれる!)

 片方の持ち手は太もものバンドにしまい、左手でトンファーを構えた。
 相手は槍を持っており、リーチではおとるが、すきをついてふところに入っていまえば、スズネが一気に有利になる。
 ジリジリと見張りが近づいてくる。
 スズネは耳をませて、見張りが近づいてくるのを感じ取りながら、飛び出せるようにしゃがみ込んで息を潜めた。
 見張りが足を止め、一気に曲がり角へと入り、その先のスズネへと槍を構えた。

「よっ、おりゃ!」
「なっ、グフっ!」

 構えられた槍を払って、見張りの溝落みずおちにトンファーで思い切り突き上げた。
 すると、見張りはあまりの衝撃に意識を無くして、スズネにおおいかぶさるように倒れかかるが、スズネはそれを避けた。

「おし! やった!」
「てめっ! よくも!」
「へ? うわっ!」

 ただ、見張りは一人で様子を見にきた訳ではなかった。
 後ろに控えていたもう一人の見張りが槍を突き出してきたのだ。
 スズネはなんとか避けることができた。
 咄嗟とっさの出来事で尻餅しりもちをついた。
 その衝撃で左手からトンファーを離してしまい、自分の後ろへと転がっていった。

「痛た! もう一人も来てたのか〜!」
「そりゃ、ニコイチで動くだろうよ! よくも仲間を痛ぶりややがったな、覚悟しやがれ!」
「くっ! おりゃ!」

 見張りはまた槍を突き出してきた。
 スズネは左手でなんとか槍の柄の部分を払った。
 その間に火傷している右手で右太もものバンドから持ち手を取り出して、魔力を込める。
 槍を払われた見張りはりずに、左からぎ払ってきた。
 その槍をトンファーでなんとか受け止めた。
 だが、体勢も悪く、火傷を負った右手では痛みで力を入れずらくなっていて、徐々に押し負けてくる。

「はは、観念しな! 降参するなら、命は救ってやるぜ? その身体で色々と楽しませてもらえそうだしな」
「うわ、キモ! 絶対、アンタ童貞どうていでしょ」
「だっ、誰が童貞だっ! この尼ぁ!」
「わっ!」

 受け止めていた槍が引っ込んだかと思うと、刃が付いていない逆側の石突きがスズネのトンファーを払い除けた。
 武器が無くなったスズネは払われた事でさらに右手首を痛めて、それを抑えていると、槍の刃が目の前に突き出されていた。

「さ、どうする? 俺と仲良くするか?」
「するわけないでしょ、この童貞!」
「そうかよ……なら、死ねや!」

 見張りの男は槍を両手で大きく引き戻して、強い一撃でスズネを仕留めようとしてきた。
 だが、それはスズネの狙い通りでもあるのだ。

「……馬鹿なアンタにはアタシの拳で十分!」
「な! たわばっ!」

 スズネが瞬時に体勢を変えて、間合いを詰めてきた事で見張りの男は何も出来ずに溝落ちでスズネの左拳を受け止めた。
 またしても、変わった叫び声を放って倒れた。

「なんか、ここの人たちって変わってんのかな? 叫び声変じゃない? ま、でも、なんとかなって良かった〜。 あ! 今のうちに!」

 曲がり角に放り投げられ、燃え続けていた松明を引っ込めた。
 次に倒した男たちをひきづって、壁にもたれさせた。
 転がっていたトンファーの持ち手も回収して、両太もものバンドに仕舞しまった。

「これでとりあえず、よし! あとは、こいつらどうしようかなぁ……あ、良いもの持ってるじゃん!」

 見張りの二人組の腰元にロープがあった。
 ロープをうまく使って、男たちを縛りつけた。
 男たちの荷物を漁って、使えそうな物はポーチに入れて、槍は何回も折って、使い物にできなくした。
 ついでに、さわがれないように口元に布を括り付けてやった。
 その布の出どころは、見張りの一人で変態童貞野郎の上着を破いたモノである。
 槍先の刃物や先に倒した二人の短剣も布で包んでポーチにいれた。

「これで大丈夫でしょ。使えそうなモノも増えたし、ラッキー! どっかの質屋さんで売ろっと。変態童貞野郎はそこで風邪でも引いてね〜」

 ヒラヒラと手を振って、堂々と曲がり角を曲がって両開き扉の方へと進む。

「アイツらはどうせ、なんも知らないだろうから中に入って詳しそうな奴をとっ捕まえないと。でも、これ入って大丈夫かな? 一応、手紙見とこうかな……」

 両開きの扉の前まで来て、不安になったスズネはポーチから手紙を取り出した。

『入らずに曲がり角まで戻って』
「え、ここまで来て?」
『そ! 情報が反対の扉から飛び出てくるから』
「ん〜? よくわかんないけど、戻るか〜」

 スズネは手紙を仕舞いながら、リンネの言葉通り、アジトの扉を背に曲がり角へと戻っていく。
 
「でも、なんだろ。情報が飛び出てくるって ん?」

 そんな事を呟きながら、歩いていると、どこかから騒がしい音が聞こえてきた。
 両開きの扉からではないようで、右側の壁から片側扉の方へと音が移動していくのがわかった。

「リン姉の言ってたのはこれかも! 早く曲がり角に」

 スズネが駆け出して、曲がり角に近づいた時に向かいの片開き扉が勢いよく開いて、中から見たことのある人物が出てきた。
 扉を閉めて、その扉に背を預けて、自らの身体を重石代わりにしている。

「なんとか出て来れたのは良いけど……これからどうしたものかしら……って、貴方は!」
「やばっ!」
「ちょっと! なんで、隠れるのよ!?」
 
「おい! こそ泥が外に逃げてるぞ!」
 
「っ! 大きな声を出したからバレちゃったじゃない」

 出てきたのは、スズネのパンを台無しにしたオカマ男だったのだ。

「なんでアイツが……こんなとこに? もしかして、アイツが情報ってこと? 手紙手紙!」
『あの人を助けてあげて! きっと力になる』
「えー……でも、リン姉が言うなら仕方ない! 助ける!」

 そう決断した時に、オカマが押さえていた扉が開け放たれた。

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