何事もなく朝がやってきて、王都から鳥人族の里へ向かう当日。
いつもよりも早く身支度をして、ハイネさんの店へと降りる。
ハイネさんも早くから朝食の支度をしてくれていたようで芳ばしい匂いがしている。
「おはよ、もうできてるから早く食べちゃって」
「もう出来てるの!? ハイネったら、気が効く〜!」
「おはようございます、ハイネさん。早くから作ってもらっちゃって悪いわね」
「別に構わないわ。早く食べて店前に置いてある荷台を早く片してね」
「ご迷惑お掛けします」
「お掛けします」
「二人は謝らなくていいの。謝るのはいきなりあんなのを引っ張ってきたこの子のせいでしょ?」
「へふにいいじゃん、へふもむじゃなし」
「「食べながら喋らない」」
「なによ、ふたりひて」
食べながら喋るスズネに私とハイネさんで注意すると、不貞腐れながらホットサンドを頬張る。
ホットサンドはハムとチーズを挟んであり、かじれば中からチーズが溢れ出す。
出来立てのようで私と姉妹は熱さで冷ましながら食べた。
スズネは熱さなどお構いなしに美味しそうに平らげていた。
スズネの口の中は熱さを感じないように出来てるのだろうかと思わずにはいられない。
「ハイネ〜、もう二個くらい焼いてよ〜」
「アンタのお弁当が無くなっていいなら……」
「我慢する!」
厨房へ行ったハイネさんの声を遮って、行儀良くカウンター席に座り直した。
賢明な判断だと内心思いつつ、ハイネさんのスズネの扱い方に慣れを感じた。
「三人とも食べるの遅くない? 手伝おうか?」
「間に合ってるわ」
「間に合っております」
「まふぅ〜」
「なにさ、そんなに息合わさなくたって」
姉妹も負けず劣らず、扱いに慣れてきているのは昨日の屋台飯パーティでのスズネを見たからだろう。
姉妹のためと言いつつ、ほとんどを食べ尽くしたスズネに思う所があるに違いない。
一人二個のホットサンドがお皿に乗っていたが、スズネの分はお皿に四個乗っていたのだ。
あらかじめ、足りないと駄々をこねるだろうとハイネさんも気を回していた。
それもあって、スズネも飲み物を飲んで私たちが食べ終えるのを待っていた。
「ハイネ〜! お弁当は腹持ちの良いものにして〜!」
「はいはい、アンタに言われなくてもそうしているから安心しなさい。外で駄々こねないように多めにしといてあげるから〜」
「やった〜! ハイネ、わかってる〜!」
「その分、貰うものは貰うからそのつもりでいるのよ〜」
「うぇ〜い……」
「ま、当然よね」
スズネがカウンターに突っ伏すのと逆に私はコーヒーを味わいながら呟いた。
私たちが食べ終えて、それぞれ食休みをしているとハイネさんが厨房から出てきた。
「はい、これが今日のお昼のお弁当ね」
カウンターに出されたバスケット型のお弁当は三個は同じ大きさだったが、一個は二倍の大きさだった。
どう考えてもスズネの分だろう。
「大きいのはアタシのよね!?」
「そうよ、多かったらみんなと分けなさい」
「いや、これくらい全部食べれるから任せといて」
「食いしん坊にも程があるでしょ」
「という訳でこのお弁当達はアタシが責任持って〜……」
「いや、私が持つわ。ハイネさん、余ってる包みとかないかしら」
「ちょっと待って、探すわ」
「なんで、オカマが持つのよ!」
「スズネが持ってるといつの間にか無くなってそうだから」
「みんなの分まで食べないし! 二人も頷かないで!」
私の言葉を聞いて、姉妹も頷いていたらしい。
食べ物に関しては、スズネには完全に信頼がないようだ。
「持ってきたわよ、包むわね」
「ありがと」
「では、そろそろ出発でございますね」
「そうね。でも、どうやってあの荷台の荷物を持っていくつもり? 木箱を四箱も持てないわよね?」
「心配いりません! モト達にはとっておきの方法がありますから」
とっておきの方法?
風魔法で木箱を浮かばせたりするのだろうか。
いや、里まで距離はあるから魔力がもつのか?
……地下図書館で鳥人族の事を文献で読んだ事があったな。
もしかして……
「門を潜ってからのお楽しみです」
「アタシも内緒にされてるから気になるんだよね! 早く行こ!」
「え、ええ。それじゃあ、ハイネさん行ってくるわ」
「気をつけなさいよ〜。あと腰を抜かさないように」
「? は、はい」
見送るハイネさんに気になる事を言われた。
やっぱり、アレのことだろうか。
確か、鳥人族長の血筋は特別な姿になれたはずだ。
そんな事を思いながら、店を出て城門へと向かう前に。
「入れれるものは木箱に入れましょ」
「じゃあ、お弁当を入れた木箱はモトに持ってもらおうかな?」
「持たせたところで、でしょ」
木箱の蓋を魔法で開けて、四人の荷物とお弁当を分けて入れた。
木箱の中には果物がたくさん入っていた。
びっしりと入っていなくて良かったと胸を撫で下ろした。
魔法で封をして。
「入れたわよ」
「改めて、城門へ〜!!」
やっと城門へと向かう。
スズネが荷台を引いて、姉妹も両側から軽く押している。
私も後ろから軽く押すだけ。
城門は早朝からは開く事はなく、九時頃から開くようになっている。
少し九時前だったり九時を過ぎてからになるのは、門兵の準備があるからだろう。
入国と出国を兼ねているのだから、慌てて事に当たる訳にはいかない。
危険人物の入国も重要人物の出国も見過ごしてしまえば、惨事を招く可能性があるからだ。
門兵の仕事も見かけに反して、重要な役割をしている。
「あ、門兵のおじさんだ! おーい!」
「ん? お〜、スズネちゃんじゃないか。どうした、そんなに荷台に乗せて」
「依頼で鳥人族の里に行く事になったから、それでね」
「そうなのかい。こりゃ、しばらく寂しくなっちまうな〜」
「大丈夫! すぐに帰って来れると思うし、この二人が居れば、片道一日とかからないから!」
「へぇ〜、そりゃ、すげ〜や! あそこへは六日はかかるって聞いてるからなぁ」
「へへ〜ん!」
「なんで貴女が得意げにするのよ」
「良いじゃん、別に。あ、おじさん。門を潜ったら、この荷台預けたいんだけど、良い?」
「別に構わないが、それは使わなくて大丈夫なのかい?」
「はい、構いません。私達で運びますから」
「そうかい、なら良いが。おっと出国に四人で四千イエンだ」
「わかった! オカマ払っておいて、先に門潜って待ってるから」
「当然のように私持ちなのね。構わないけど」
私が門兵のグウェドさんに出国金を払うと、金勘定の折に。
「シグさんよ。どうもあっちの方は魔物が出るって旅人が言っていた。少し用心しておいた方が良い」
「……わかったわ。ありがとう」
「気をつけてな、スズネちゃんのこと頼んだよ」
「はいはい」
城門の屋上の一件で知り合いになったグウェドは、私の事をスズネの用心棒のように慕ってくれている。
「ちなみに、どんな魔物が?」
「聞いた話だとゴブリンが出たんだと……よ」
二人で門を潜ると、前を向いていたグウェドが言い淀んだ。
何事かと私も前を見ると、そこにはスズネと。
「ほ、ほら! い、言っただろ! 魔物が出るって!」
「お、落ち着きなさい、こんな王都の近くまで魔物が出るなんて」
大きな鳥が二羽いた。
油断していたグウェドと私は少したじろいでしまった。
ゴブリンが出るって言ってたわよね!?
よく見れば、周りの人も驚いている。
早朝で少なかったのが有難い、少し遅かったら騒ぎになってそうだ。
「あ、見てみて! サキとモトってば、あんな姿になれるんだって!」
『驚かせてしまい申し訳ありません。この姿であれば、里まではすぐなので、足早に変身してしまいました』
『姉さんにシグさんが、モトにはスズネさんが乗ってもらえれば、すぐです!』
「グウェドさん、連れの鳥人族よ」
「あぁ……驚いた」
「二人とも驚きすぎじゃない?」
私とグウェドさんの驚きぶりにスズネは口元を隠して笑った。
魔物が出るって話の後に見たら、勘違いするのも無理はない。
『木箱は私達が掴んで運びます。申し訳ないのですが、細々としたものはお願いします』
「わかった! でも、その前にこれを首に通させてね」
スズネが荷台から手綱が通った首輪を取り出した。
ちょうど二個あるそれをサキとモトの首にかける。
これで背中に乗っても手綱を持っていれば、振り落とされないという事だ。
「木箱も掴んでもらったし、行けるね!」
「すみませんが、荷台をお願いします」
「はいよ、任せてくれ。魔物にも気をつけてな」
「はーい! さ、オカマ早く乗ろ!」
「はいはい」
「サキ、お弁当落とさないでね?」
『任せてください。お二人ともしっかり掴まっておいてくださいね』
『飛びまーす』
「吹き飛ばされたくなけりゃ、離れろよ〜!」
グウェドさんが周りの人へ声を掛け、離れていくのを見計らってから。
バサリバサリと大きな翼で羽ばたいた音を聞きながら、大きな身体が浮き上がる。
羽ばたいたせいでグウェドさんが風に煽られていたが、荷台に掴まり堪えていた。
しばらくして、王都を見下ろせるくらいにまで上昇すると、鳥人族の里へ進路を向け飛び始めた。
手を大きく振るグウェドさんがすぐに小さくなり、しばらくして王都も遠く小さく見えるようになった。
この速さなら、一日とかからないと言われた理由がわかる。
「すごいすごい! はや〜い!」
スズネもはしゃいでいるのが聞こえてきた。
「今更だけど、やっぱり変身出来たのね」
地下図書館で読んだ文献に書かれていた。
『鳥人族の族長の血筋は、大きな鳥に変身できる』という文言。
「だから、夢を見たのかもしれないわね」
『シグ……さん、大丈夫ですか?』
「ええ。でも、飛ばしすぎないでちょうだいね」
『はい、お任せください』
私とスズネは、サキとモトに乗って鳥人族の里へ向かう事になった。

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