第四十二話 八尺瓊勾玉の力

 

『妖力を……込める……怪我を治すようにっ!』
 
 八尺瓊勾玉やさかにのまがたまに椿の妖力が込められた途端、まぶしいばかりの光が放たれた。
 津流御祖神社つるみおやじんじゃで浄化した時よりも光は強く、一瞬にして辺りを真っ白に染め上げた。

「くぉ〜っ!」
「くっ!」
「っ!?」

 その場にいる一同、あまりの眩さにその光から目を背けた。
 光が収まり、辺りを見回すと状況は一変していた。
 弓月ゆみづき達を囲んでいた泥人形達は居らず、葵原あおいはらのいた場所には砂山ができていた。
 椿つばきを飲み込んでいた泥は無くなり、少し勾玉と共に浮遊していた。

「椿っ!」

 その浮遊が不意に無くなり、地面に落ちそうになったところをあおが瞬時に駆け寄り受け止めた。

「椿、起きろ! 椿!」
「……げほっ! ごほっ!」

 椿の身体を揺さぶると、しばらくして椿が咳き込んだ。
 その口からは何も出ることはなかったが、肩を揺らしながら大きく息を吸い込んではまた咳き込んだ。

「あ、蒼さん」
「椿、大丈夫か?」
「は、はい、なんとか……げほっ! 季喬ききょう様のおかげです」
「……なんで、季喬の?」
「蒼! それは後じゃ!」

 蒼に椿を任せていた弓月がさけんだ。
 その声の方を向いたその先には息絶え絶えな葵原がいた。

「一体、何をした? 地中にいた麻呂まろの妖力ごとはら退けたあの光は……なんでおじゃる?」
「神の御業みわざというやつじゃ。これだけ境内を荒したんじゃ、バチの一つも下るじゃろう」
「今のは一体……」
「さっきから何が何だか……」

 神主と巫女は何が起きたのか、分からずにあたふたとしていた。

「二人にはすまんが、椿を頼む」

 弓月が神主と巫女にそう伝えると、慌てながらに椿へと駆け寄っていった。

「蒼! 神主と巫女に椿を預けたら早よこっちに来い! 相手は弱っておるが、気は抜けぬぞ!」
「わかった。すまないが、頼む」

 駆け寄ってきた二人に椿を託した蒼は弓月の下へと向かおうとした。

「わ、私も……戦います」

 振り向くと椿が蒼のはかますそを引っ張っていた。

「椿……」
「椿! お前はもうよくやってくれた! ゆっくりしておれ、それがお前にできる事だ! 少しでも早く気を取り直して巫女の怪我けがを治してやれ!」
「だそうだ、待っててくれ。すぐに片付ける」
「は、はい」

 蒼は後ろ髪を引かれる思いで弓月へと駆け寄った。
 駆け寄る前に巫女が椿にお礼を言っているのが聞こえた。

「くそっ、こんなはずではなかったのに……貴様らのせいで台無しでおじゃる!」
「じゃろうな。お前達のたくらみなぞ、それに我らが居らずとも天明てんめい九ノ峰大社くのみねたいしゃの巫女が阻止しておるわ!」
「ぐぬぉ〜! このまま泥のえさとしてくれる!」

 怒り心頭な葵原は背にしていた川から泥達を呼び寄せたが。
 泥は泥人形にすら成らず、砂山のような泥が二個ほどできただけであった。
 
「ば、馬鹿な! 麻呂の泥がこんなに少ないわけがっ!」
「どうした? さっきの光のせいで泥が大方消えてしまったのではないか?」
五月蝿うるさい!! もしや、彼奴きゃつめ! またしくじりおったのかっ!? こっの……役立たずめ!」
御託ごたくはこれまでじゃ! 蒼、修業の成果を見せてやれ!」
「わかった。容赦なく魂を引っこ抜いてやる」

 蒼は腕を突き出しててのひら神気しんきを溜め始めた。
 
たましいを引き抜く? 馬鹿め、そんなことができるものか! あまり野蛮な事は好まんが止むおえん! 殴りとかしてくれる!」

 葵原はなけなしの泥を腕にまとわせて二人の元へ駆け出した。

「好都合、取りやすく捕まえやすい!」
神気しんき 抜魂糸ばっこんし

 駆け寄ってくる葵原に向けて五本の糸を掌から出した。
 その意図を阻止するために泥のついた手で弾こうとしたが、どの糸も葵原を擦りもせずに地面へと落ちた。

「何をやっとる、しっかり狙わぬか!」
「これでいいんだ、見ててくれ」
「何かと思えば、こけおどし! このまま溶けてしまえ!」

 弓月へ葵原も殴りかかろうとしてきたが。

「今だっ!」

 糸を引っ張り、背後から糸の先に付いた針が葵原を捉えた。

「なにっ!? ぐっぬぉぉおぉ〜!?」

 針は五本とも葵原の胸へと寄り、一気に葵原の魂を引き抜いた。
 黒くきたならしい魂がモヤをかもし出していた。

『っ!? ど、どっ! どうなっておる!? 麻呂の身体があんな所にぃー!?』

 蒼が出した糸で魂だけになった葵原。
 こうなって仕舞しまえばぬえ一族の残党の一人として名があるだろうが、それを知る由もない。
 地上には平穏貴族の身体だけが取り残され、魂は宙に放り出されている。

「よくやったぞ、蒼! では、我直々にとどめを刺してくれるっ!!」

 弓月はそれを見ながら、右手にほのおを宿した。
 それは轟々ごうごうと火力を上げていき、ついぞ、赤い焔は真っ黒な焔へと変貌へんぼうしていった。
 
『そ、その術はっ!! そ、そうはさせぬ! 泥でお前を溶かしてっ……!!』
「もう遅いっ!!」
焔奥義えんおうぎ 黒焔牢こくえんろう!』

 泥が弓月へ襲い掛かろうとしたが、放たれた黒い焔によって通りすがりに焼き切れた。
 糸の先にある魂を囲むように飛び、一気に包み込んで燃やした。

『くぅおぉぉ〜!! これが……麻呂達をほふってきた焔ぉぉ〜……っ!! 夜摩よま様〜っ!!』

 黒い焔は魂を逃す事なく、叫ぶ鵺一族の残党を容赦なく焼き切った。
 黒い煙が立ち、空へと舞い上がっていく所へ黒い霧が現れた。

『ヤッパリ、やられたカ〜。マァ、仕方ないワナァ。アイツじゃ力不足ダ。頑張ったのは認めるガヨ』
「っ! お前は!」
『オォー、仇敵きゅうてき黒狼こくろう。形が違っても妖気で分かるゼ? また会ったナァ。弓月ゆみづきに関しては初対面ダガ……にしても、なんで形が違うんダ?』
「お前に話すいわれはない! なぜ、今のこのこと出てきた!」
『それこそ、言うにおよばねぇナァ……すぐに離れるからほっといてくれヨ』
「そんなわけにいくか! 葵原の企みが、お前の差金なのはわかっておる! 逃げながら何をするつもりじゃ!」
『そんなわかりキッタ事を聞いてどうすんダヨ。そんな事よりも三百年前よりも弱くなったナ、弓月』
「何?」
『前なら全部焼き切ってたのにナァ? じゃあ、オレは用が済んだカラまたどっかでナ』

 黒い霧は鵺一族残党の魂が焼いた煙を飲み込んで漂い、東の空へと飛び去っていった。
 
「……」
「弓月、良かったのか?」
「戦意はなかったみたいじゃ、しておけ。それより藤祭を再開し終わらせよう。蒼は葵原を頼む、我は椿の容態を見てくる」

 椿の元へと歩み寄る弓月の尻尾は垂れ下がり、どこか落ち込んでいるように見えた。
 蒼はしばらく見送ると、葵原へと歩み寄った。
 うつ伏せで倒れているが、息をしていた。
 時折、うめいている所を見るに鵺一族の残党に乗り移られていたようである。
 蒼は葵原と呼ばれていた者を担ぎ上げた。
 すると、変化がけたのか煙を上がった。
 一気に小さくなった事でその両脇を両手で支えて、目の前に持ってくると……

「……たぬき

 鵺一族の残党が乗り移っていたのは化け狸であった。

「蒼よ、椿は問題なさそうじゃ。巫女の怪我も治しておったわ。……なんじゃ、その狸は?」

 蒼が事情を話すと、天明に報告するがてら預けるとなった。
 そして、危険はまぬがれたとなり、藤祭は再開。
 九ノ峰大社の巫女達、もとい、弓月達により八尺瓊勾玉は清められた。
 津流別雷神社つるわけいかづちじんじゃから平穏京へいおんきょうまでの道すがら何事もなく、帰り。
 平穏京に入れば、京民達に向かい入れられた。
 平穏御所へいおんごしょへと入り、無事に返納すると藤祭は閉幕となった。

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