第四十四話 次の旅へと

 

 季喬ききょうの所から預けていた荷物を受け取り、帰ってくると天明てんめいが家でゆっくりとお茶をすすっていた。
 
「何はともあれ、無事に勾玉は清められ、藤祭ふじまつりは閉幕。いやはや、何より何より。弓月ゆみづき様方もお疲れ様でございました。姿も戻ったという事は、季喬様も胸を撫で下ろしておる頃でしょう」
「そんな御託はいい。そのたぬきはどうしてここにいる」

 つらつらと事の成り行きを並べる天明に弓月はここに居合わせている狸に視線を向けた。
 弓月に見られた狸は慌てて、天明の足元へと寄っていった。

「襲ってきた者に関しては、ぬえ一族の残党が狸に乗り移り、八尺瓊勾玉やさかにのまがたまを奪おうとした。そうお伝えしたのですが……『その乗り移られていた狸はどうする? 残党を成敗したとしても、まだその狸の中にいるやもしれぬ!』『その狸も成敗せいばいしてしまえ〜!』となりまして」
「『僕が引き取る』とでも言ったのか?」
「そういう事です」
「お前もお人好しじゃな。菊左衛門といい、誰でも彼でも引き受けていたら身がたもてなくなるぞ」
「少なくとも弓月様たちが関わった方々だけですよ。少なくとも仲間は多いに越した事はないでしょ?」
「ふん。なら、身をほろぼさぬようにな」
「お気遣いありがとうございます。それで御出立ごしゅったつはいつになさるのですか?」
旅荷たびにを改めてからじゃから、明後日には出立しようかの」
「早いですね。もう少し身体を休めては? 季喬様の頼みとは言え、まつりごとへの参加は疲れでしょう」
「いや、長居は無用じゃ。季喬様から新たな頼み事も承ったからの。善は急げじゃ」
「そうですか、どんな頼み事を?」
「どうも蝦夷えぞで雪女が騒ぎを起こしておるらしくてな。かんを取り戻すためにもらしめてこいとの頼みじゃ」
「なるほど、それはまた長い旅路になりますね。しっかりと準備しなければ……少ないでしょうが路銀をお渡しします」
「構わん、お前も家がこの様ではそんな余裕もないじゃろ」
「それには及びません。家は此度の政のおりに新しい家を褒美で頂く予定です。それにぜにもこの通りです。その代わり、位はまた上がり損なってしまいましたがね」

 そう言いながらに弓月の前に麻袋あさぶくろを差し出した。

「それで良いのか? お前のこの先が心配になるが」
「構いませんよ、私は位が高くなるよりも身近な人々を守りたいのです。位が高くなれば、出来なくなっていくでしょうから」
「左様か、お前の好きにすると良い。季喬様の頼みではあったがお前の政を手伝ったのには違いない。ありがたく頂いておこう」
「はい、僕としてもありがたい心遣いです」
「使命を果たしても返しはせんからそのつもりでな」
「ええ、ええ。大丈夫ですとも、使命を果たしてもらう事が何よりのお返しですから」
「まったく、らず口じゃな」
「僕の取り柄ですからね。おっと、あとこれを」

 また弓月の前に祝儀袋しゅうぎぶくろのような封筒が差し出された。
 そこには通行許可と書かれていた。
 弓月がそれをいぶかしく眺めていると。

「書いてある通り、通行許可袋つうこうきょかぶくろです。私の伝手つてに国交をになっている者がおりまして。弓月様達のための作らせました」
「そんなものを勝手に作らせて大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ、私にりがありましたからね。それを返してもらっただけです。それを使えば、旅をさらにしやすくなります。季喬様の御用件も大事ですが、本来の使命もしっかりとこなしてくださいませ」
「釘を刺されずともわかっておる。ありがたく使わせてもらうからな」
「ええ、どうぞどうぞ」

 通行許可袋を受け取ると椿達が帰ってきて、次の旅の事を話した。
 萃蓮すいれんが寂しがったが、狸を見せると追いかけ回したり、抱き抱えたりと慌ただしく一日が過ぎた。
 次の日は季喬から返してもらった旅荷と必要な荷物を買い揃え、整えていた。
 天明の家で神力による仮の身体を披露ひろうした。
 一同、驚いていた。
 そんな日を終えて、出立の日となった。

・ーー・ーー・

 蒼に身体を譲り、弓月は仮の身体に入った。
 荷物を持った蒼と椿、真ん中に弓月。
 向かいには左から菊左衛門きくざえもん、天明、狸を抱えた翠蓮。
 平穏京へいおんきょうから出てすぐ近くで向き合っていた。

「それでは、お気をつけて」
「慌ただしい出立で悪いな」
「いえいえ、季喬様の頼みがなくとも長い旅路。足早になるのは仕方ありません。ですが、十分に身体に気をつけてくださいませ」
「なに、道中宿屋もある。無理強いしなければ、なんとかなるじゃろう」
「私も少しばかりは薬草の心得もありますから大丈夫です」
「それは頼もしい。長話も程々にしておきましょうか。さ、萃蓮ご挨拶しなさい」
「……また遊んでくれる?」
「ああ、また遊びに来るぞ」
「私も旅であった事、いっぱい話に来ますね」
「うん! 蒼も次は遊んでくれる?」
「そうだな……風の妖術で萃蓮を飛ばしてやるかな」
「えぇ! 飛ばせるの!? 萃蓮飛んでみたい!! 今やって! 今すぐぅ〜っ!」
「こらこら、今から旅に出る蒼様にそんなお願いは……」

 そうたしなめる天明をよそ目に萃蓮の身体がふわりと浮いた。
 それに萃蓮は目を丸くして、蒼を見ると微笑んでいた。

「今はこれで辛抱してくれ」
「うん。へへへ、ありがとう」

 地面に立った萃蓮は少し気恥ずかしそうにしていた。

「すみません、ウチの萃蓮が」
「構わない。これくらいお安い御用だ」
「拙僧も浮ければ、庭の手入れが楽になるやもしれませんな」
「……人間が一から身につけるには難しいな」
「ならば、仕方ありませんな。ゔゔん、皆様お気をつけて。助けて頂いたご恩は忘れませぬ」
「なに。天明の庭を綺麗にして、元気に過ごしておればそれで十分じゃ。気張らずに好きに過ごせ」
「ありがとうございます、拙僧は幸せ者です」

 涙ぐむ菊左衛門にみんなして、大袈裟なと思わずに居られなかった。

「では、出立するとしよう。三人とも元気での。狸もな」
「狸じゃないよ、紅葉もみじだよ」
「左様か、大事に育てるんじゃぞ?」
「うん、任せて!」
「再三になりますが。皆様、道中お気をつけて!」
「はい、気をつけます」
「ありがとう」

 そうして、弓月と蒼と椿は平穏京へ天明、萃蓮と紅葉、菊左衛門に背を向けた。
 萃蓮が「いってらっしゃーい」と大きな声をかけてきたので、振り向きざまに手を振った。
 萃蓮もそれを見て、腕を振り、天明も菊左衛門と手を振った。

「弓月さん、次の目的地はどこなんですか?」
「お〜、そういえば、話してなかったの。蒼よ、地図を渡してやってくれ」
「地図?」
「季喬様が書いてくださった地図じゃ。お前の懐にある紙じゃ」
「ん? これか。ほら、椿」
「ありがとうございます、それでは見せてもらって……えっと、これ見間違いじゃないですよね?」
「問題ない、次は蝦夷じゃ」
「な、なんで、そんな遠くまで」
「何でも蝦夷を治めておる雪女が乱心のようでなだめて来るようにとおおせつかったのでな」
「だからと言って、この国最北の地に行くことになるなんて」
「そんなに嫌なのか?」
「遠いですし、とても寒い土地だと聞いた事があります。吹雪の中で遭難でもしたら流石の治癒でも治せず死んじゃいますよ!」
「なに、着くのは夏の時期じゃ。冬の時期よりもマシであろう。なんなら、我の炎もあるんじゃ。なんとかなるじゃろ」
「それなら良いんですが、道中も何か起こるんですよ、どうせ」
「その時は俺がなんとかすれば良い」
「二人して、なんとかって……やっぱり、血は争えませんね」
「そうじゃな、椿は我らの旅について来ている以上は腹をかかるんじゃぞ」
「わかりました。私なりに頑張ってついていきます」

 弓月達が次に向かうのは蝦夷。
 平穏京から遥か北西にある地へと向かうことになります。
 その道中、着いた先で何が起きるかはまた次のお話でございます。

 黒狼記 弍 〜九尾に良いように化かされるようです〜  完

                            蓮木はすき ましろ

あとがきのようなもの

 どうもこんにちは、蓮木 ましろです。
 『黒狼記 弍 〜九尾に良いように化かされるようです〜』をここまで読んで頂けて嬉しい限りです。
 僕自身もつたないながらもここまで書けた事を嬉しく思っています。
 初めての毎日投稿という試みをしてみましたが、読者の方々が毎日読んでくださっていることに驚きました。
 なんなら、投稿時間を途中で変更したりもしたのですが、変わらず読者様方のご都合で読んでもらえているんだなぁと。
 閲覧数を見て、しみじみと思っていました。
 改めまして、読んでくださってありがとうございます。

 さてさて、今回のお話ではモデルになったものが多々ありました。
 察しの良い方は気づいていたと思います。
 モデルになった建物や人物や行事から名前を変えて登場させてもらっています。
 実際とは違う事があるのは、あくまでフィクションであるからと付け加えておきますね。
 取材した場所もあれば、僕の中の想像で作り上げたものもあります。
 取材と称して旅行して、それはもう楽しませてもらいました。
 おかげで良いものが書けたかなと少なからず感じたので、次の作品も舞台となる場所にちかしい場所なんかにりょ……もとい、取材に行ければなとたくらんでいます。
 
『黒狼記 弍 〜九尾に良いように化かされるようです〜』を読んで頂きありがとうございます。
 また次の投稿でお会いしましょう!
 それでは〜。

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