第十六話 なにそれ、こわっ!

 

 飛んですぐに森の中へと入った時に。

「……今、なにかったような気がしたんだけど?」
「私には何かがけたように感じたわね」
『どうされました?』
「いや、なんか違和感あったんだけど、勘違いかも」
「そうね、魔力の少ないスズネが感じる事は大体が勘違いよ」
「人を魔力音痴まりょくおんちみたいに言わないで!」
「ほんとのことでしょ?」

 決めた。
 オカマの分まで干し肉食べてやる。
 アタシの決意も束の間、視界に広がる森に興味は移った。
 山のように見えていたこの森は今まで見た事ない程に大きな木ばっかり。
 王都へ向かう途中で木に横穴作って、野宿のじゅくした事もあったけど……
 その木よりもずっと大きい。
 ぱっと見で、アタシの身長の二倍くらいあるかも。
 そんな木々の間をモト達は器用に飛んでいく。

「ここがラグユラシル大森林だいしんりんの中。思っていたより明るいのね」
『ギスの木は葉が一枚一枚大きいですが、葉の数は少ないんです。だから、シグさん達の知る森よりも明るいんだと思います』
「じゃあ、下の沼地だとか湿地だとかもなんか違ったりするの?」
『大森林の中と周りは大体が湿地なんですが、見ただけでは泥の深さがわからない沼地があります。なので、野生の生き物や魔物の死骸しがいが沼から浮き上がって来ているのを見かけますね。昔は人の死体も浮いていたとか聞いた事もありますよ』
「それで、死の沼地だっけ? そう言われてる訳か〜」

 サキの大まかな説明にアタシがそれとなく返事をしたら、
 
『それだけではありません! この湿地には深泥しんでいのヌシと呼ばれる化け物が居ると言われていて、沼地に沈んだ者はその餌食えじきになっているのです!』
「なにそれ、こわっ!」
『無傷で浮いている死体もありますが、無惨むざんに食い尽くされた骨の破片が浮いている時があるんです! それはまさに深泥のヌシの餌食になってしまった成れの果て。ヌシが居ることの証明なのです! 他にも骨とは違う皮のような物が浮いていたりして、それはヌシが脱皮したものではないかとされているんです!』
「そ、そうなんだ!」
『それはつまり、ヌシは脱皮するということを示していて、しかも成長している可能性があるんです! 個体を増やしている可能性さえありますから、調べなくてはいけません!』
「聞いてるとやばそうなのに、安全なの?」

 モトがたくさん話してくれたけど、すんごい怖くなってきた。
 
『はい、どうもヌシは木を登る事は出来ないんです。だから、飛べる私たちの先祖はこの大森林で唯一ヌシと共存が出来ているんですよ』
「なるほどね。なら、私達も安全だね」
『はい! ただ、湿地には落ちないでくださいね。危険な事には変わりありませんから』
「う、うん、気をつける!」

 高い所から落ちたら終わりなのは、地面だろうがこの沼地だろうが変わりないし、気をつけないと。
 
「本当に気をつけなさいよ」
「なんで、オカマにまで言われないといけないのよ!」
「私よりも動き回るからよ。珍しい物があっても飛びつかないでちょうだいね」
「アタシの事、子供とでも思ってるでしょ?」
「違うの?」
「違うでしょ〜よ! オカマこそドジって落っこちないでね! アタシにそんな事言ってたらそれくらいの罰はあるかもだし!」
「……スズネにしては面白い事言うじゃない」
「こっんの〜!!」
『まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください。そろそろ大森林の中心部、鳥人族の里ですよ〜』

 サキに言われて、視線を前へ向けると一気に視界が開けた。
 森を抜けて、里へ着いたらしい。
 目の前にはギスの木が密集していた。
 どうもそれが鳥人族の里みたい。
 木の所々に取ってつけたように家が建てられてて、そこへ鳥人族の人が居るのが見えた。
 それにそこから飛び立つ姿も見える。
 大森林の中へと入っていくのを見るに何か森の中で用事があるのかもしれない。
 里の周りはギスの木が生えていないのではなく、切り倒されたのがわかる。
 大きな切り株が見下ろせば、目につくから。
 あの切り株はアタシの身長の四倍くらいの大きさはあるね。

「なんかすごいとこに住んでるんだね! びっくりしすぎてキョロキョロしちゃった!」
『モトも初めて里を外側から見た時はびっくりしたので気持ちわかりますよ。特に切り株とか』
「だよね! どうやって切ったの?」
『毎日少しずつ切ったのだとか。当時、ヌシに食われそうになったりと大変だったようです』
「そうなんだ! でも、切り株の周り沼じゃないよね?」
『それは陽の光を浴びて、乾いているので問題ありません。里の中にも少し沼がありましたがもう乾いてますよ』
「なら、足滑らしても沼には落ちないから安全だね」
「地面があるから落ちたら死ぬでしょ」
「わ、わかってるし」
『お二人とも。このまま族長の所まで飛んでいきますが、よろしいですか?』
「もちろん! 大丈夫!」
「着いた瞬間、取り囲まれたりしないわよね?」
「なに〜? オカマもしかして怖いの?」
「ここは鳥人族の里よ。余所者よそものは何されても逃げられない。用心はすべきでしょ」
『ヤゲンの伝え方にもよりますが、私たちが里へお連れした方々。族長たるお父様が無碍むげに扱う事はありません。そうした場合は私たちも強くうったえますので』
「そうなったら、アタシ達も戦えば良いって!」
「はぁ、そうならないことを祈っておこうかしらね」

 そんなやりとりをしていると、里の鳥人族の人達がサキとモトに気づいたようで寄ってきていた。

「サキ様とモト様がお戻りになったぞ〜!!」
「おかえりなさーい!」
「ご無事で何よりです〜!」
「さっき、兵士たちが外へ出て行ってたのはお二人を迎えにいくためか」
「何はともあれおかえりなさーい!」

 そして、アタシ達の姿や荷物を見つけたみたいで。

「お二人の上に誰か乗ってる!」
「人間だ〜! お二人が人間をお連れになっているぞ!」
「なんで、人間をお連れに?」
「あー! 何か荷物も持ってる!」
「お預かりしたいけど、かなり大きいから無理だな」
「外の物が入ってるんだろうなぁ。何を持って帰ってきたんだろ?」

 あっという間に二人を鳥人族の人達が囲んで、アタシやオカマ、荷物を観察してきてた。
 そのせいで前をふさがれちゃったけど。

『皆さん、ただいま戻りました。ただ、急いでいるのでまた後ほど』
『モト達は族長に旅の事やお二人の事を報告しないと』
「であれば、途中までみんなでお見送りしよう!」
「また囲んじゃわないようにしないと!」
「姫様達のおかえりだ〜! 急いでるから道を開けろ〜!」

 里の人達と一緒に里の一番高いところへと向かっていく。
 視線の先には一番大きなギスの木があって、他の家よりも高い場所に家があった。

「あの家にモト達のお父さんが居るの?」
『そうですよ。見たところ、警戒はされてないので大丈夫ですね』
『皆さん、お見送りありがとうございます』
「姫様達のためならなんてことないぜ〜!」

 里の人達に見送られて、モトとサキは族長家の床スペースに降り立った。
 荷物を先に下ろしてから、羽ばたかせてからゆっくりと着地する。
 アタシもオカマも二人から降りて、垂れ幕のかかった家の前へ立った。

『さ、お二人とも』
「ここが鳥人族の族長、私達のお父様であるロフクの家です」
「お父様、今帰りました〜!」

 変身を解いたサキが先陣を切って、幕を押し上げ入った。
 モトも変身を解いて、アタシ達のために幕を押し上げててくれた。

「スズネ、失礼のないようにね」
「わかってるってば」

 そんな事を小声で話しながらアタシとオカマも入っていく。
 言われなくてもわかってるっての。
 リン姉から面倒を見るように言われたからって一々うるさいな。

← 前のページ蓮木ましろの書庫 次のページ →

 

蓮木ましろのオススメ本



コメント

タイトルとURLをコピーしました