第十九話 流石は私達の子ね

 

 この話をするには十五年前に魔族と魔物に滅ぼされた国の話をしないといけません。
 国の名前はアグゼミド王国。
 私達のような亜人族あじんぞくをまとめていた偉大な国でした。
 亜人族間の仲を取り持ち、お互いが利益のある貿易を行わせる。
 アグゼミド王国からも亜人族との貿易もあり、人が納める他国とも貿易もしている。
 アグゼミド王国の国民は知性も魔力も高く、治安も良い事で有名でもありました。
 亜人族にも人間にも分け隔てなく接する事のできる国民性は他国にも知れ渡るほどでした。
 それはもう立派で大きな国だったと聞いています。
 ですが、それだけではありません。
 アグゼミド王国にはもう一つの大きな役割がありました。
 魔族と魔物の監視と抑制です。
 アグゼミド王国からの貿易の品には魔族や魔物を討伐した際に獲れた物を加工した物が多く、質も良かったと聞いています。
 それは他国よりも魔族や魔物と近しく、強力な者たちと渡り歩ける魔力と知性があったからこそ。
 亜人族の中からも戦いを好む者は、アグゼミド王国に雇っともらい、戦いへと赴く者も居たそうです。
 長きに渡り、監視と抑制をしてきた王国。
 魔族と魔物から反感を持たれるのは容易に想像がつきます。
 挙句、目の敵にされたアグゼミド王国は、魔族と魔物の反乱を受けて力及ばずに二日ばかりで滅んでしまったのです。
 アグゼミド王国を滅ぼした魔族と魔物は、亜人族をも滅ぼそうと手を回してきました。
 亜人族もアグゼミド王国に雇われていたとはいえ、戦いへ赴いた者が居た事で反感を買ったのでしょう。
 ただ、近隣であったという事で打ち滅ぼしてやろうとも考えたのかもしれません。

 ここからは私たちの身の内話になります。
 アグゼミド王国が滅んだと聞かされた当時の私たちは打ち震えたのを覚えています。
 なんとも言えない絶望感は幼子だった私でも感じ、不安感でいっぱいでした。
 私たちだけでなく、お兄様も里のみんなもその一報を聞いて何も言えず、信じられずにいました。
 そんな中、私たちのお母様だけは違ったのです。
 
「アグゼミド王国が滅んだからと言って、私達の里が滅んだ訳じゃない! なんで、絶望を感じているの? 私達の里は私達の力で護りましょう!」

 お母様は私達の前で力強く言い出しました。

「アグゼミド王国が何もせずに滅んだ訳がない。相手も手負いのはずよ。だから、皆で返り討ちにしましょう! まだ私達は生きているのよ! 魔族と魔物に思い知らせてやりましょ! アグゼミド王国だけの力ではなかったという事を!!」
 
 お母様はお父様と婚姻する前に、アグゼミド王国に雇われていた程に武を心得ていた方でした。
 婚姻してからは里に残り、里のために尽くして、私たちを育てていたのです。
 お母様の武を知らない者は居ない里のみんなはお母様の言葉に奮起して、戦いに備え始めました。
 ただ、その当時の私としては怖いという気持ちが強く、準備しているみんなさえも怖く感じていました。
 モトもまたそうみたいだったので二人して、邪魔にならないところで小さくうずくまっていました。
 お兄様も準備を手伝っていたのですが、そんな私たちを見かけて勇足いさみあしで近づいてきました。

「お母様の子なら準備くらい手伝えよ! そんな所で小さくなってても何も変わらないぞ!」
「だって……」
「前に出ないとこれから先もなめられて、誰も話を聞いてくれなくなるぞ」
「里のみんなは優しいからそんなことない」
「優しさに甘えてても、いざという時に誰も助けられなくなるぞ!? それでも良いのか?」

 そんなの良くないと言えれば良かったが、お兄様の言うこともわかりました。
 怖いものは怖いと言える雰囲気ではなく、うつむきました。
 自分たちも分かってはいても動けないものは動けなかったのです。
 そこに……

「どうしたの、また喧嘩?」

 お母様が空から準備の様子を見回っていたようで、私達が言い合っているのを見て、すぐにおりてきました。

「だって、こいつらが」
「……もう、お兄ちゃんなんだから妹たちには優しくしないとダメじゃない。サキ、モト、二人とも。怖がる事も決して悪いことばかりじゃないのよ?」
「え?」
「でも……」
「お母様、こんな事ないだろ! 怖がってたって敵は襲ってくるし、誰も守ってくれない!」
「それは一人ならの話。サキとモトには私がいるし、ロフクとお兄ちゃんのチュウヒ。里のみんながいる。二人を守れるくらいに力があるわ。それにね、守るものがあるってことはそれだけで強くなれるのよ」

 そう言いながら私達の頭をでてくれた母の顔は優しく微笑ほほえんでいました。

「この戦いでチュウヒはそれを学んで、サキとモトは次の機会に恩を返せるようになっておくこと。次に活かせるような経験をしてほしいと思ってるわ。でも、大丈夫」

 振り向いたお母様はお兄様を寄せてきて、その大きなつばさで私達三人を包み込んでくれた。

「三人とも私達の子だもの。サキとモトはロフクに似て思慮深しりょぶかいだけ。チュウヒは私の勝ち気な所が似たのね。三人とも私達に似てる。なら、きっと良い方へ成長できると思えるから」

 立派な翼はお兄様と私とモトを暖かくて、柔らかくて、綺麗きれい羽並はなみをしていた。
 綺麗な翼を見た後に母の顔を見ると、目が合って微笑まれると嬉しくなって微笑み返しました。
 お兄様とモトも見ていたようで視線をそれぞれ移して、私達の目を見てくれるお母様の目から視線を外せませんでした。

「さ、お兄ちゃんは強く言い過ぎた妹に何を言うべきかな?」

 翼を下ろして、お兄様の目線へと視線を合わせた。
 お兄様はきまり悪そうに視線をらしてから。

「ごめんな」

 チラリと私達を見てからそう呟いて、飛び立っていった。

「ついでに周辺偵察しゅうへんていさつしてちょうだ〜い!」

 飛び立っていったお兄様へ大声で伝えると、私達へと向き直って、目線を合わせて翼も頭に添えられた。
 翼の先だけ、人の手に変化させ、優しく撫でてくれました。

「お兄ちゃんはあんなだけど、許してあげて」
「はい、お母様」

 私が返事をして、モトが頷くとお母様は微笑んでくれた。
 少しの間、頭を撫でられた後、思いついたように手から翼に戻して、私達を寄せるように翼で包んだ。
 
「二人とも怖いだろうけど、二人には同じように怖がっている子をできるだけ集めてくれないかな。一箇所に集まってくれれば、私達も守りやすいわ。お願いできる?」
「……やってみます」
「モトも!」
「うん! お願いね。 集める場所は里の真ん中にある大広間。あそこならそう入り込んではこないだろうから大丈夫なはずよ」
「わかりました」
「私はチュウヒと周辺偵察するから、怖がってる子がいれば声をかけるわね。その間は二人で探して」

 そう言ってお母様は飛び立っていきました。
 しばらくお母様を見ていると、その視線に気付いたのか、頷きかけてきた。

『二人でなら大丈夫』
 そう言ってくれた気がして、私は頷き返したのです。

「モト、頑張って怖がっている子を集めましょう」
「わかりました、お姉様」

 二人で怖がっている子を探しながら、飛び回りました。
 時折、お母様やお兄様から声をかけられ、大広間へと連れて行きました。
 老いた方はお母様が力を貸して、連れてきてくれたりと避難は無事に終わりました。

「二人とも良くやってくれたわ。流石は私達の子ね」

 お母様にそう声をかけられたのも束の間。

「敵襲です!! 戦える者は外に出てください!!」

 何人かの周辺警備していたひとが里中を飛び回り伝えてきたのです。

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