第二十九話 負けっぱなしはいけねぇよなぁ?

 

「そりゃあ!!」

 シグがかごの底で二人を退場させた頃、スズネは空中できのみを相手の羽毛にこすり付けていた。
 
「ついでにっ、退場!!」
「ぐぅあ〜!!」

 さらに、体をひねって回し蹴りをお見舞いをしていた。
 その威力はすさまじく、食らった相手は場外へと飛ばされていった。

「おし! とりあえず、あと二人っ!」
「動きが止まった!」
「空中なら動けないだろ!」

 スズネが籠側面かごそくめんを利用して動き回っていたことで、相手の鳥人族達はめあぐねていたようだ。
 そんな中で落ちていくだけのスズネは見るからに無防備で格好の獲物と見えるのだろう。

(ついでだから、まとめて倒しちゃお)

 スズネからすれば、寄ってくる二人の鳥人族の方が獲物である。
 こちらから近寄らなくていいなら、一人目よりも断然楽だからだ。

「このまんま、二人で外に放り出してやるぜ!」
「観念しやがれ!」
「観念するのはそっちっ!」
 
 二人の鳥人族の鉤爪かぎつめを片方ずつ掴み、また身体を捻る。
 相手も抵抗むなしく、スズネを軸に振り回される。

「あ、きのみの汁つけたんだった! もう退場でいいや!」
「や、やめろ! どわぁ〜!!」

 一人目を場外に飛ばす前にきのみを擦り付けた鳥人族を勢いのままに場外へぶん投げた。
 体勢を立て直せなかった鳥人族はそのまま場外へ。

「こっちはきのみを擦り付けてっと……それじゃあ、バイバイ!」
「このきのみはなんのために、へぶぅあ〜!」

 スズネは鳥人族を踏み台代わりにして、籠の側面に掴まった。
 踏み台にされた鳥人族は、そのまま場外へと飛んでいった。

「オカマー! 三人とも外に出したけどー? あと何人出せば良いー?」
「あと六人……っ! 今、五人になったわよ」

 シグは話しながらにきのみを擦り付けた鳥人族をさらに一人、退場させた。
 退場させられる前に、スズネが退場させたことで他の三人が入場してきた。

「なに言ってやがる! お前らはこっちの判別もつかねぇだろ!」
「そっちこそ、何を言ってるの? 単なる嫌がらせできのみを擦り付けてるわけじゃない?」
「退場させた奴らが、おっと。二度と試合出れないように、してるんだから!」
「なんだと……」
「しかも、使ってるのはツブラの実。そう簡単には落とせないわ」

 ツブラの実は油分の多いきのみだとサキたちから教えてもらったシグはこの試合のために集めてもらっていた。
 手袋もついでに用意してもらった。
 道具の持ち込みもルールに記載されていないのだから、ルール違反とはならない。
 
「おい! アイツらを倒して来い、絶対にだ!」
「「へ、へい!」」

 残りも二人も入場して、今、籠の中に入ったのがラースカ連合最後の五人である。

「最初はあんなに、得意げだったのに! みっともな!」
「くっ、こんなはずじゃ……」
「こんな奴ら、さっきの奴らみたいに! アンタと同じく、退場送りにしてやるからね!」
「……このあま……」
「一度退場した選手は、出場できない。スズネ! 今、籠の中にいるので最後よ!」
「わかった! すぐに片付けちゃお!」
 
 そこからはまたラースカ連合の鳥人族にスズネとシグはきのみを擦り付けて退場させていった。
 ラースカ連合のリーダーであるラースカはその様子を悔しげに眺めるしかなかった。
 自身にはきのみを付けられてはいないが、最初に堂々と
自ら退場していった事とここまで会話で個人を特定されていたからだ。
 
「コイツで最後!」
「ぐへぇあ〜!!」

 スズネが最後の一人を蹴り飛ばした。
 今回の籠鳥神鳥祭の試合の中で長丁場ながちょうばとなったが、試合内容は薄い物であった。

「ついに決着〜っ!! 勝者は他国の何でも屋!! スズネ選手!! シグ選手!!」
 
 試合終了の宣言の後すぐに歓声が上がった。
「よくやってくれた!」
「ありがとう!」
 と感謝の声も聞こえてきた。
 試合中の盛り上がりは少なかったものの、何でも屋を応援する観客は常に多かった。

「ルールに明記されていない事を逆手に取ったまさかの展開となりましたが、それをも想定したシグ選手の作戦が見事にこうそうしました! 長丁場となった今回の試合! ですが、スズネ選手、シグ選手ともに息が上がっておりませんっ!! なんというスタミナでしょうか! 他国の人間は皆、こんなに強いのか!?」

 シグは小さな動作で避けていたおかげで息は上がっていない。
 だが、スズネに関しては籠の上部で空中戦を繰り広げていたのに息が上がってはいないのである。
 そんな二人に驚きと賛美の声が飛ぶ。
 スズネは両手を大きく振って応えていた。
 シグは視線をあちらこちらへと向けていた。

「オホン! ワシからも良いかの」

 ロフクからの一声は響き渡り、司会はもちろん、観客と選手一同が視線を向けた。

「ルールに書いていなかった事で結果として、試合が長くなってしまい、鳥籠神鳥祭の進行を遅らせてしまった。祭の責任者として、お詫び申し上げる」

 ロフクは頭を下げ、その後ろにいたサキとモトも頭を下げた。

「今回の鳥籠神鳥祭はルールを変更せずに執り行う事にするが、次回からはルールを検討してから執り行う事とする。ワシからは以上じゃ」

 ロフクの話が終わると、観客達も話し始めた事で騒ついた。

「こんだけ間延びしたのは初めてだったな」
「今日は一試合だけだったから良かったが、他にも試合があった時には祭の進行も遅くなっちまうしな」
「ルールに書かれてないからって良しとするのも問題だぜ」
「書かれてない事をどうするかの審判も必要になるんじゃねぇか」

「えぇ、族長ロフク様の言う通り。次回のルールは新たに考えられた方がよろしいでしょう。なかなかに長丁場となりましたからな。ま、それはさておき! 本日の準決勝は終わりました〜! スズネ選手、シグ選手、ご退場をお願いいたします〜」
 
 様々な意見が持ち出されそうな準決勝は終わった。
 二人は手袋を外して、迎えにきた鳥人族に掴まって、籠から出ていく。

「ラースカ連合の方々は、もう帰られたようですね。見受けられません」

 ラースカも籠を囲んでいたラースカ連合の手下達も見る影もなく、居なくなっていた。

「負けっぱなしってのはいけねぇよなぁ?」

 のだが、退場してきたスズネへと凄まじい速さでラースカがせまった。

「ちょっ! 危ないでしょうが!!」
「スズネ! トンファーがっ!」
「え!? 嘘でしょ!」

 スズネを落とそうと迫ってきたのではなく、スズネが愛用しているトンファーの持ち手が盗まれたのだ。
 腰元のフォルダーが切られ、飛び去っていくラースカの鉤爪に盗まれたものが光っている。

「はははっ! 試合に負けても、金目かねめの物は頂く! それが俺たちラースカ連合だっ! コイツは高く売らせてもらうぜ!!」
「待ちなさい! 泥棒鳥ぃ〜!!」
「このまま追いかけられない!?」
「む、無理です、俺たちじゃぁ……」

 スズネが騒ぎ立て、オカマは運搬してくれた鳥人族に声をかけるもす術無しとなってしまった。
 このままトンファーを盗まれる訳にもいかないのにと二人が思っていると。
 
「スズネじょう!! シグの兄貴!!」

 あわてる二人に呼び慣れない呼び名が掛けられた。
 兄弟と思しき、二人の鳥人族が飛び寄ってきてくれたのだ。

「僕たちで良ければ、力になりましょう」
「あなた達は……良いのかしら?」
「俺たちはお二人に負かされたが、そんな二人がこの里で不幸にうのは見過ごせねぇ!」
「そうです! さ、早く乗ってくださいっ!」
「ありがと! オカマも早く!」
「その前にポーチを預けましょ。申し訳ないけど、お願いするわ」
「わかりました。えと、どうすれば……」

 シグがポーチを渡すとスズネも慌ててポーチを渡した。

「サキか、モトに渡しといて! 早く行こ!」
「わかってるわ。ハブサヤさん、サブハヤさん、よろしく頼むわ」

 スズネが一回戦で戦ったサブハヤに乗り、シグは二回戦で戦ったハブサヤに乗った。
 ヤヤ兄弟の背に乗り、ラースカ連合を追う二人に観客達もまたも歓声をあげた。

「今日はハプニングが多いですっ! 果たして、スズネ選手のトンファーは取り返せるのでしょうか!?」

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