スズネとシグが里へと避難する中、観客だった鳥人族達も避難をしていた。
幸いな事に里や周りにはまだ火の手は伸びていなかった。
ラグユラシル大森林からは離れている事もあり、周りが火の海になろうとも燃え移る事はないだろう。
ただ、それでは鳥人族達の生活が立ち行かなくなる。
「人の居る前では使いたくないわね……族長の家まで飛んでくれないかしら」
「良いですが、何をするつもりで……」
「変な事はしないわよ。むしろ、里のためだから安心してちょうだい」
「アタシもそこまで連れてって」
「わ、わかりました」
何でも屋二人を運ぶ鳥人族達は少し思う所がありながらも族長の家まで飛ぶ。
族長の床スペースでシグとスズネを降ろし、運び屋の鳥人族二人も降り立った。
「ありがとう。申し訳ないけど、私が今からする事を他言無用でお願いね」
鳥人族達に言うと、二人とも顔を見合わせていた。
そのやり取りを放っておいて、シグは懐から髪の毛を取り出した。
もはや、一括りにされた髪の毛。
30本くらいはあるようだ。
「そんなに集めてるとか……ちょっと引いちゃうかも」
「私の髪を不潔なもの扱いするのはやめてくれるかしら」
そう言いながらに魔力を込める。
髪の毛は紅く発光し始めた。
『この地を紅く染める炎を覆い尽くし
その身を持って支配せよ』
呪文を言い終えると、紅い魔力の玉がシグの手元から一直線に空へと飛んでいった。
大森林に広がる炎とは裏腹に雲一つない青い空に紅い玉が溶け込むように見えなくなった。
「オカマ……もしかして、ミスった?」
「黙ってなさい」
手元の髪の毛は紅く発光し続けている。
この魔法は発動するまでに時間を要する。
この炎を放った敵と戦う前に状況を良くせねばならなかった。
しばらくして、空は次第に雲が多くなっていき、里や大森林に影が落ち始めた。
「もう少し……」
「オカマ! 危ない!」
スズネの声でハッとしたが、魔術の準備に集中しているシグには避けようがない。
シグの左斜め前方向から紅い矢のようなものが飛んできていた。
あわや、シグの頭を貫くであろう矢をスズネが弾いた。
矢はスズネ達の頭上に飛び、霧散していった。
「惜シイな、殺せたト思ったんだが」
問いただす前に犯人らしき声が聞こえてきた。
紅い矢が飛んできた方向から紅い翼を羽ばたかせる人影があった。
鳥人族とは違い、腰から紅い翼が生えている。
人のように見える姿だが、顔も身体も手も足もサラマンダーと似た形をしている。
サラマンダーの魔族と思って間違いないだろう姿だ。
生き残ってきた証であろう傷跡が目元にあった。
「さっきのはアンタが放ったの?」
「オレじゃないカモしれないぜ? サラマンダーの大群と押しカケにきたんだ。ソイツらの中にもできるヤツはいるさ」
「わかった、アタシに防がれてビビってんでしょ? 白状すれば?」
「うるさいヤツだな、オマエ。じゃあ……」
魔族は左手をだるそうにあげると、宙に無数の炎を生み出した。
炎が不規則に消えると先程の紅い矢があった。
その多さのせいで目の前が赤く染まったような錯覚を覚えるほどだ。
「一気に全員マトめて串焼きにシテやるよっ!」
魔族が素早く左手をスズネ達へと振った。
その動きに習うように無数の紅い矢はスズネ達へ、里全体へと降り注ごうとしていた。
スズネは身構え、二人の鳥人族は怯え、シグは不敵に笑っていた。
「少し遅いわね」
『ローチェン・グランディレーゲン』
シグが呪文を完成させると、一気に豪雨が降り始めた。
大粒の雨粒が里と大森林へと差別なく容赦なく降り注ぐ。
その勢いで振ってくるとわかっていたシグですら、自身に当たる雨粒たちの重みで屈みそうになるほどだ。
スズネは魔族の攻撃に対して身構えていたこともあり、踏ん張れている。
二人の鳥人族に至っては膝をついてしまっていた。
「一気に降りすぎじゃない?」
「ここまで広範囲の魔法は初めてなの。強弱まで考えられなかったわよ」
「あっそ……でも、まぁ、アイツの攻撃が無力化できたのはでかしたわ」
シグが生み出した豪雨のおかげで、大森林に広がっていた炎も勢いが弱まるどころか消えつつあった。
今し方、スズネ達を襲おうとしていた魔族の無数の紅い矢も消え失せている。
もれなく、魔族も豪雨にさらされ、紅く発光していた魔族もびしょ濡れでどこか勢いがなくなったように見える。
「森に放った炎モ、オレの矢モ消し去る雨。オマエ、何者ダ?」
「魔族なんかに名乗る名前はないわね」
「……その手にアルのは何だ?」
「お生憎様、答えるつもりもないわよ」
「……名も手の中のソレもオレらに知られタラ困るってことカ」
「さぁ? 単純に貴方達みたいなのが大嫌いだからということもあるんじゃないかしら」
少しの間、シグを見たままに黙考するサラマンダーの魔族はいきなり、口角を鋭く吊り上げた。
「マァ、そんな細カイ事はオマエらを皆殺しにシチまえば、どうでもヨクなるんだ」
胸元にある黒い石のようものが徐々に赤みを帯びていく。
それに反応するように大森林からゾロゾロとサラマンダーたちが里を囲うように出てきた。
「蹂躙してヤルから大人しく殺サレてくれや」
魔族の胸元が紅く発光し切ると、雨に打たれているにも関わらずに魔族の身体が炎に包まれた。
そして、他のサラマンダー達も炎が伝播するように体に灯っていく。
「させんぞっ!!」
雨が降りしきる曇天の空から響いてきた声の主が魔族へと凄まじい速さで攻撃を仕掛けた。
魔族はまともに攻撃を受けたのか、その声の主に連れていかれる形で大森林へと姿を消した。
「なに、今の?」
スズネが思った疑問はシグ達も思う所で状況についていけずにいた。
「スズネさん! シグさん!」
曇天の空から再び声が響きてきた。
見上げると四人の空飛ぶ姿が見え、降りてきていた。
「魔族に関しては、お兄様がお一人で引き受けると言って、独断で攻撃を仕掛けたんです!」
「私達は止めたのですが、聞き入れてくれなくて!」
サキとモトが降りてきながらに話してくれた事を考えると。
「さっきのはチュウヒだったのね」
「でも、一人で大丈夫かしら?」
「わからんが、二人につかぬことを聞いて良いかの?」
ロフクとワゲハシも降りてきた。
鳥人族たちの避難にワゲハシも尽力したのだろう。
三人と共に里へ戻ってきたようだ。
「何かしら?」
「魔族の顔に傷はあったかの?」
「あったあった、目元くらいに切り傷みたいなのが」
「やはりか……あの魔族は妻の仇じゃ」
「……という事は、チュウヒは仇討ちのために一人で」
「そうじゃろう」
八人全員が沈黙していると、サラマンダー達が騒ぎ出した。
さっきまで大人しかったのは魔族の命令がなかったからだろう。
各々が騒ぎ出している。
襲ってくるのが目に見えてわかるほどだ。
「魔族はチュウヒに任せよう。助太刀するのもこの事態をどうにかしてからじゃ」
『皆の者! 準備は良いなっ!!』
ロフクが床スペースの縁に立ち、声を響かせた。
すると、里中から声や鳴き声が聞こえてきた。
『あの時の雪辱を晴らす時が来た! 彼奴等からこの里を我らが我らの手で守るのじゃぁ!!』
ロフクの言葉が号令であったのだろう、一気に鳥人族は里を飛び立ちサラマンダー達と対峙する。
一触即発。
どちらかが手を出せば、戦いは避けられない。
「巻き込んですまんが、力を貸してくれんか……他国の何でも屋よ」
「もちろんっ! チュウヒとの戦いを邪魔したのを後悔させてやるわっ!」
「スズネもこう言ってるし、もう雨は降らせてるわ。依頼主が危険となると報酬も貰えなくなるのだから、巻き込まれるしかないわね」
「そう! 報酬!! 救ったら、いっぱい貰えるよね!?」
あくまで報酬目当てと建前を言うシグ。
本気で集ろうとするスズネ。
そのチグハグな物言いにロフクは笑ってしまった。
「ほっほっほ! これは高くつきそうじゃわい」
「お父様、私たちも戦います!」
「あの時の私たちじゃもうありません!」
「わかっておる。ワシからも頼む」
「サキとモトはアタシと組んで! 協力して、里の誰よりもサラマンダーを倒すわよ!」
「「はい!」」
「ワシらはシグ殿を守るとしよう」
「吾輩も試合では見せられなかった術を披露してしんぜよう」
「よろしく頼むわ」
サラマンダー達の身体がより紅く発光しだしたのを見てとった瞬間、もうそれが合図となった。
『皆の者っ!! かかれぇ〜ぃ!!!!』
ロフクの声が響くと同時に、翼を大きく羽ばたかせた。
鳥人族はほのかに緑に光った。
そして、甲高い鳴き声が大森林に響き渡り、戦いは始まった。
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