第七話 仕事、見つけてきたわよ

 

「あ〜、疲れた〜」
「ちょっと、せっかくカウンター拭いたんだから。そんなとこでだれない」
「良いじゃん、別に。これからまかない食べるんだし、ここはアタシの席だもん。それに後で拭くから大丈夫」
「まったく、その賄いのお金も給料から天引きするからよろしく」
「えぇー! そんなの聞いてないんだけど! この詐欺師!」
「貴方の食べる量が賄いの範疇はんちゅうを超えてるのよ! もう少し抑えて」
「いやだ! お腹ぺこぺこだと、夜中に起きて眠れなくなるんだもん!」
「知らないわよ。とやかく言われたくなかったら、売れない何でも屋の方でかせいでちょうだい」
「だから、売れないっての余計でしょうが!」
「はいはい。じゃ、作ってきてあげるからゆっくりしてなさい」
「ぐぬぬ、そのうち「売れない」なんて言わせなくしてやるんだから!」

 アタシはカウンターを軽く叩く。
 調理場からハイネが調理を始めた音がしてきた。
 別に調理場に行かなくても、アタシと話しながら調理できるのに変なの。
 カウンターで頬杖ほおづえをしながら調理場の方を見ていると、店の扉が開いた。

「あら? スズネだけ……あ、ハイネは調理場ね」

 そこにいたのは、長髪の黒髪にバンダナを巻いたアタシの相方であるオカマだった。
 わるびれる様子もなく、平然と入ってきた。

「あ〜!! 良くも相方であり、何でも屋の店主であるアタシをバーでバニーさせやがったなー!」
「良いじゃない、働き口なく野垂のたれ死ぬよりマシよ」
「なにを〜」
「そもそも、スズネが王都での信頼を勝ち取れていれば、私だって仕事を探すのも苦労せずに済んだのよ? そう言う事を踏まえて、私にそう言うのかしら?」

 詰め寄ったアタシをサラリとかわして、アタシが座っていた席の横へとすわった。

「それは〜……だって仕方ないじゃない! アタシだって一人で頑張ったんだから!」

 アタシもつられるようにもといた席へと腰を下ろす。
 開き直るアタシを見て、オカマは少し長いため息をついた。

「まぁ、過去の事を引っ張り出しても仕方ないわね。はい、これ」
「ん? なになに?」
「私がなんとかとってきた仕事よ。他の何でも屋が途中で放り投げた仕事だけどね」

 アタシはオカマがカウンターに出してきた紙を手に持った。
 そこには子供が描いたような絵があり、こう書け添えられていた。

「えっと? 『姉を探しています。手伝ってください』ってただの迷子探しの依頼じゃん。こんなのにみんな手こずってるの?」
「そうみたいね。まぁ、王都は広いし、手がかりがその絵と依頼主。しかも、獣人族の鳥人種ちょうじんぞくの子供だそうよ」
「あー、そういう感じか〜。だから、絵の感じも少し人間離れしてる訳ね〜」

 紙に描かれているのは、ぱっと見で人間に見えなくもないけど、良く見ると腕は羽根で覆われていそうだし、足も人間にしては立派な鉤爪かぎづめがある。
 自由気ままに飛ぶことができる鳥人族を探すのは確かに苦労しそう。
 ……なんかこの絵に似た子を見たことあるような気がするけど、気のせいよね。

「他に良いのなかったの?」
「そう言うと思って、一番マシのをとってきたんだけど?」
「はは、だよね〜……仕方ない。明日からこの仕事するか〜」
「はい、賄い持ってきたわよ。シグさん、お帰りなさい。そろそろだと思って、紅茶淹れておいたわよ」
「ただいま、ありがとう」

 ハイネは賄いをアタシの前に出した時に依頼書に気づいたのか、残念そうに顔に手を添えた。

「明日のバニーはお休みみたいね、残念だわ」
「べー、こちとらこっちが本業だからね、べ〜っだ」
「そんな事するなら、その賄いは今晩限りね」
「やだなぁ、ハイネったら。冗談よ冗談。また仕事ない時はお願いします。いただきま〜す!」

 今回の賄いは細かく刻んだ野菜とお肉を焼いて、そこにライスを入れて、パラパラに炒めたものだ。
 「ごった炒め」と命名した賄いである。
 めちゃくちゃ美味しい!!

「ウチの相方が悪いわね……申し訳ないんだけど、私も賄いもらっていいかしら、お代はちゃんと払うわ」
「いいわよ、お代は。スズネの面倒見てくれるだけで助かってるから」
「なにそのやりとり! アタシが子供みたいじゃない!」

 二人はアタシの顔を見た後、鼻で笑ってきた。

「じゃあ、シグさんの分も作ってくるわね」
「お願い」
「こらこら! アタシの話を無視するなぁ!! あと、人の顔見て笑うな!!」
「はいはい、私が聞いてあげるから」

 ハイネはアタシに構わず、調理場に戻っていった。

「だいたい、なんでオカマとハイネってそんなに仲良いの!? おかしくない?」
「別に普通でしょ。貴方が少しお子ちゃまなだけよ」
「あー! まーた子供扱いした! たくさん食べて、オカマよりも身長高くなって、ハイネよりもナイスバディになってやるんだから!」
「何でも屋さんの方は?」
「そりゃあ、もちろん! リン姉よりも凄い何でも屋になって、世界一の何でも屋になる!!」
「あっそ。私は貴方のお姉さんは知らないけど、そう成れるように頑張らないとね」
「うん!! だから、いっぱい食べて、体動かして、いっぱい寝て、強くならないとね!」
「わかったから、黙って食べなさいな」
「うん!」

 アタシは賄いを食べ、オカマは貰ってきた依頼書を見ながら、紅茶を口へ運んだ。
 調理場からはハイネが調理する音が聞こえてくる。
 なんてことないこの三人の時間はアタシのお気に入り。
 ハイネがオカマのことをシグと呼んでるのは自己紹介の時にそう名乗ってたから。
 アタシは呼ばない。
 オカマはオカマだからね。
 
「はい、これはシグさんのよ」
「ありがとう、ハイネ」
「ハイネ! おかわり!」
「え、もう?」
「うん!」
「はぁ、私も休ませなさいよ〜」
「だめ! まずはアタシのお腹が先! いたっ」
「欲張りすぎ、ちょっとハイネさんの事を考えなさい」
「ちぇ〜」
「ありがと。じゃあ、私もお呼ばれしようかしらね。スズネは皿洗いしてくれる?」
「えー! なんでぇ!? いつもはハイネが洗ってるのに〜?」
「たまには良いでしょ。今日の賄いは天引てんびきしないからしてちょうだい」
「仕方ないな〜。天引き無しと賄いのおかわり要求します!」
「おかわりは天引きだから」
「けちぃ〜!」
「なんだかんだ、スズネもハイネと仲良しね」

 その後、皿を洗って、おかわりの賄いも平らげた。
 家兼仕事場の何でも屋に戻ってきて、交代でシャワーを浴びた。
 いつも通り、最後にアタシが入った後にオカマの風魔法で髪の毛を乾かしてもらった。
 お風呂上がりとなれば、いつもバンダナを巻いているオカマも流石に外している。
 黒く長い髪の手入れをしているところを見ると女に見えなくはない。

「オカマの髪って長いね〜。切らないの?」
「……普通、乙女の髪を切らないのかって聞くかしら?」
「いや、だってそんなに長かったら鬱陶うっとうしくない?」
「鬱陶しくないわよ。スズネこそいい加減、そのボロボロのリボン捨てなさいよ」
「いいじゃん、別に! これはオカマがくれたものなんだし、アタシの勝手でしょ。それにお互いに同じものを分け合って身につけているのは相方とかパートナーって感じがしていいじゃん」
「まぁ、スズネがいいなら構わないけど。」

 オカマのバンダナと同様にアタシもリボンを外してる。
 縛りっぱなしだと髪が痛んじゃうし、なんとなく気も抜きにくいし。
 接待室は依頼主と会話するところではあるけど、夜になれば、二人の共有の部屋になってる。
 お互いにいつも座ってる椅子に座って、のんびりしてる。

「あー、今日も疲れた〜!」
「バーは今日も盛況だったのね」
「なんでわかるの?」
「スズネがそう言う時は大概そうだからよ」
「なるほどね〜……待って。なら、アタシが行ってる日ってほとんどそうなるけど?」
「さしずめ、スズネは看板娘ってところかしらね」
「えぇー! そんなのダメ! こちとら、何でも屋の店主なのに!」
「嫌なの?」
「……別に良いけど」
「バーの看板娘って言われないためにも、明日の依頼をしっかりこなしましょ」
「うん! オカマの方はどうだったの?」
「てんでダメね。なにも情報がつかめないわ」
「そっか、何か分かればいいのにね」
「そうね。まぁ、のんびりやるわ」
「うん! じゃあ、寝るね。明日に備えなきゃ」
「そうね、私も少しゆっくりしたら寝るわ」
「わかった、おやすみ」
「おやすみなさい」

 アタシは一足先に自分の部屋へと入った。
 この生活にも慣れてきたなぁ。
 最初はどうなるかと思ったけど、オカマは約束を守ってくれてるし、なんだかんだ役割分担もできてるし。

「明日の依頼、しっかりこなそう」

 誰に言うでもなく呟いて、寝た。

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