第二十三話 ……なにか、言ったかしら?

 

 私たちはしばらく黙々と食べていた。
 量のせいもあるけど、私の方が先に食べ終えて、食後のコーヒーをもらう。

「やっぱり、食後のコーヒーは良いわね。この一杯を楽しむために食事をしたって感じ」
「ふふ、最近までホームレスだったのが嘘みたいに優雅ゆうがね」
「だからこそ、今の生活に余裕があるって感じかしらね」
「それもそうね」
「ハイネさんは最近、ここら辺で依頼書に描いてある鳥人種を見かけた事あるの?」

 左ポケットから折り畳んだ依頼書を出して、ハイネに渡した。
 ハイネは依頼書を開いて、描かれている絵に眉間にしわを寄せた。

「すごい絵ね……こんな子は見たことないわ。シグさんも知ってるでしょうけど、王都では他種族自体珍しくないわ。鳥人種ちょうじんぞくも見かけるけどね」
「そうよね……何か手がかりがあれば、と思ったのだけれど、そう簡単にはいかないわよね」

 そう言って、私は依頼書を受け取って、もとのポケットに入れた。
 少し重くなった頭を支えながら、コーヒーに口をつけた。
 あらかじめ、情報が有れば、見つけるアテができる。
 依頼主の妹さんからも情報は貰えるだろうけど、見つけられないからこその依頼。
 正直に言って、アテになりにくい。
 だからこそ、他の何でも屋もこの仕事を投げ出している。
 少しでも情報が有れば……。

「たぶん、アタシ。この迷子になってる子を知ってると思うんだ〜」
「……え?」

 まだ揚げ鳥とサラダを交互に食べているスズネが口を挟んできた。
 元よりアテにしていなかった所からそんな事を聞くと疑わしいことこの上ないが。

「あ、その反応は信じてないな〜。でも、まぁ、アタシも今朝の夢を見るまで忘れてたから定かじゃないけど」
「本当にアテにならないじゃないの」
「まぁ、その妹さんに会えば分かることだし、今回は任せといてよ!」

 そう言って、また食事を再開する。
 食べているのを少し眺めて、ハイネと肩をすくめた。
 この相方の「任せといて」は頼りがいがない。嫌な予感がする。
 そんな気がしてならないのだ。

「下手な事はしないように頼むわよ」
「らいじょうぶ、らいじょうぶ」

 その後は黙って、スズネが食べ終えるのを待った。

「よーし! 食べ終えたから行こっか!」
「とりあえず、待ち合わせをしている依頼主に会って、一緒に行動するようにしましょ」
「なんで?」
「依頼主が一緒に探すって聞かなかったのよ。それに、その方がお姉さん見つけた時に手っ取り早いでしょ? 見つけたらすぐに会わせて、見失わないようにして貰えば、依頼も終わりだもの」
「そっか! なんかそう聞くと楽そう!」
「楽観視しないの。他の何でも屋が投げ出した依頼なんだから楽な訳ないでしょ」
「大丈夫だって、たぶん」
「はぁ〜。裏路地の調査依頼の時みたくならないと良いけど」
「オカマは心配しすぎなんだって」

 お冷を飲み干すスズネをじっと見る。
 誰のせいだと思っているのか……

「そんなことないわよ。とりあえず、オカマさんの言う通り気をつけて行きなさい。賄いも準備しておいてあげるから」
「ハイネまで〜。わかった……まかない楽しみにしとくね!」

 もうこの時点で先行きが不安でしかない。
 なんでこの相方と何でも屋を組んでしまったのだろう。
 成り行きでそうならざる負えなかったのだから、仕方ないのだけれど。

「はぁ〜、やるっきゃないわね。スズネ、行くわよ」
「なんで! オカマが仕切ってんの! アタシが何でも屋の看板なんだからね!」
「はいはい、先にどうぞ」
「よろしい」

 スズネのためにドアを支えて、ハイネにお辞儀をした。
 ハイネは困り顔で手を振ってくれた。
 それに軽く肩をすくめて、返事してから私も店を出る。
 他所から見れば面白いのかもしれないが、私とハイネみたく親しくしていれば、スズネに振り回される事になるだろう。
 ただ、これに慣れてしまうとスズネが居ない時間が物足りなく感じる。
 ……いや、たまには一人の時間もほしいわね。

「はぁ〜」
「オカマ〜、ため息つくのやめてよ。幸先悪いじゃない」
「……それはごめんなさいね」
「も〜、しっかりしてよね。ところで、依頼主との待ち合わせ場所ってどこ?」
「行き先がわからないのになんで先頭歩いてるのよ」
「何度も言うけど、アタシが何でも屋の看板だから。オカマは看板を支える柱くらいをしてれば良いと思う訳ね。で、待ち合わせ場所は?」
「……城門広場よ」
「なんで、そんなとこ?」
「もし、そのお姉さんが王都から出ようとすれば、出会う可能性があるでしょ。それに王都に詳しくなくても城門広場はわかりやすいわ」
「なるほどね」

 それに加えるなら、ハイネの店は少しわかりにくい場所にあるし、ギルドハウス周辺は依頼を取りにくる何でも屋も来る。
 依頼主も役立たずだった何でも屋を見かけるのは良い気分じゃないだろう。
 気の使いすぎかもしれないけれど、依頼主との関係を出来るだけ良好にするのことで聞き出せる情報もあるはず。
 今回みたく同行しての人探しとなれば、なおのこと。
 正直、依頼主には宿屋でじっとしていて欲しかったが、一緒に探したいと言ってきたのだから仕方ない。
 姉が勝手知らずな土地で[[rb:行方 > ゆくえ]]知れずになっているとなれば、自分自身も探さずにはいられないのだろう。
 私はスズネが動き回りそうで気が気でないのに、そこに依頼主、なんならその依頼主の姉を探すときた。
 これは割と大変なのでは……。

 いや、まだそう思うには早いかもしれない。
 依頼主の人当たりは割としっかりとしていた。
 なんとかなるかもしれない。
 そんな事を考えているうちに城門広場へ着いた。
 昼過ぎという事もあって、王都に着いた旅人や荷馬車が多くいる。
 王都に来た目的は門をくぐる前に済ますが、危険物がないか等の積荷確認が行われる。
 旅の最中で武器の所持は必須であるが、この王都では過度な武装は危険視されており、護身用の武器以外はここで城門兵に預けなくてはならない。
 王都に滞在や住み着くとなれば、また話が変わってくるが、王都を出る際には武器は持ち主へと返すことになっている。
 時々、取り違いで揉め事もあるようだが、問題なく持ち主に返されるそう。
 なんでも、持ち主の魔力だけに反応する名札のようなものを預かった武器に施しているのだと聞いたことがある。

「相変わらず、人が多いわね。多種族もちょこちょこいるし、依頼主を探さないといけないじゃない」
「大丈夫よ。細かく待ち合わせ場所も決めてあるから。城門広場から城へ続く大通りの騎士像。盾と剣を構えている騎士像の近くで待っているように伝えてあるわ」
「……なんか一々細か過ぎない。オカマはやっぱり心配性だったりするの?」
「こういう事はあらかじめ、決めておいて事をスムーズに済ませたいだけよ。それにスズネが大雑把過ぎるだけで、私の方がまともなくらいだわ」
「オカマになってる時点でまともではなくない?」
「……なにか、言ったかしら?」
「いやぁ、なんでも〜。あ! 騎士像見えてるじゃん! 早く行きましょ!」

 適当に誤魔化したスズネは、話し始める前から見えていた騎士像へとわざとらしく駆け寄っていった。

 全く、誰のせいで細かくやっているのか。
 一度、スズネに依頼を取りに行くようにさせた時も報酬が高額であるというだけで、依頼を取り付けようとしたり、条件を満たしていないのに依頼を受けようとしたりと大変な目にあった。
 それ以降は依頼を取り付けるのは私の仕事で、スズネは依頼が無い日にバーでの仕事をするよう決めた。
 何でも屋の仕事だけでは、まだ生活を安定させる事はできない。
 スズネがバーで働いてくれている最中、何でも屋として仕事をしっかりと探す。
 それがせめてものお返しだろうに。
 スズネはわかっていない。

「全く、困った相方よね」

 私は軽く髪を払って、スズネの後を追うように騎士像へと向かう。

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