第二十四話 依頼主を待たせ過ぎでは?

 「ちょっと、オカマ! ホントに依頼主と待ち合わせしてるの? 居ないんだけど?」
「ちゃんと居るわよ」

 私がそう答えるとスズネは首を傾げた。
 スズネは街の中での鳥人族ちょうじんぞくを特徴が依頼書に描いてある通りだと思っているのだろう。
 私は騎士像に背を預けている一人の女性を見た。
 「ユカタギ」と呼ばれる鳥人族の民族衣装。
 袖口が広く、ゆったりとしている上着。
 帯で腰元を締め、裾は膝隠すまである。
 袖や裾に水色に染められてある。
 足には素足に「ゲタ」という特有の履き物を履いていた。
 間違いなく、依頼主その人。

「あの! 依頼主を待たせすぎでは? 待ち合わせ時間を過ぎていますよ!」

 その女性は、私の顔を見るなり食いかかるように近づいてきた。
 過ぎたと言っても五分ほどで待たせ過ぎとは如何なものだろう。
 ただ、この依頼主が待ち合わせ時間よりも早くからここで待っていたとしたのなら少し過ぎたくらいでもこうして怒ってしまうかもしれない。

「ごめんなさいね。ちょっと支度に手間取っちゃったの」
「しっかりしてください。これじゃ、他の人たちと変わりませんね。……ところで、シグさんの横にいる方は? さっきからジロジロと……」
「この子はスズネと言って……」

 私が依頼主にお小言をもらっている間に、スズネは無遠慮ぶえんりょに依頼主をジロジロと見ていた。
 正面にいれば、右に後ろに左に帰ってきては正面へ。
 
「あれ? どう見ても人間だよね?」
「夢で見たのはもっとこう鳥人間って感じだったんだけど〜?」
「羽根とか足とかどうなってんの? ていうか、ホントに鳥人族の依頼主なの? う〜ん? いった!」
 
 と最終的には依頼主の事を疑いだし、下から覗き込むように怪訝けげんな目を向けた。
 どう考えても失礼極まりないので頭を叩いた。

「ちょっとやめなさいよ。落ち着かないと叩くわよ。ごめんなさい、この子ったら何も知らない馬鹿でして」
「もう叩かれたんだけど! てか、馬鹿って言った!? ねぇ! ホントにこの子が依頼主? 鳥人族じゃなくない?」
「本当に何も知らない子ね。他国に来た獣人族の中にはこうして、人の姿に変化する事を許されてるのよ。なんなら、その方が好ましいとさえされてるわ」
「そ、そうなの?」

 本当にこの看板娘は……。

「獣人族ってだけで、付け狙う輩がいるの。この王都でも例外じゃないわ。それこそ、同族間でも幼子をさらって奴隷にして、成人すれば、無理矢理に子を産ませるなんて事をする奴もいると聞いたことがあるわ。身の危険が多い事から自衛という事で他国に来た時にはその他国で一番多い種族に変化するのよ。この王都であれば人が多い事から人へ変化していたりするって事、わかった?」
「う、うん。なんかえげつないんだね」

 流石の馬鹿でもここまで言えば、わかってくれたようだ。
 良かった、まだウチの相方は物分かりが良い方で。

「あの、もうよろしいですか?」
「あ、こっちの勉強不足で失礼したわ」
「構いませんよ。本当ならこの姿はあまり好ましくないのですが、この国に入る際に門兵の方から良くない話を聞いたもので」
「昨日も話していた事ね」
「なんの話?」
「この王都に獣人族じゅうじんぞくの女の子を狙う輩がいるらしいのよ。色んな事が考えられるのけど、さっくり言えば、金絡み。変態もいいところね」
 
 さっきも言ったようにわらった獣人族の女の子を他の獣人族へと売る事ができる。
 欲を満たすためだけに攫って、いかがわしい事をする輩もいるだろう。
 そんな事をした所で、本当の欲は満たされないだろうに……時に人というのはあきれを通り越して、救いようもない事をする。
 私がそんな輩の事を変態と言ったことでスズネからじと〜っとした目を感じたが、どうせさっきみたく「オカマのアンタが言うの?」って事だろう。
 一々、構ってやれないから無視するけど。

「だから、出来れば安全な所でじっとしててくれる方がいいのだけど」
「それだと居場所がバレてしまえば、数に物言わされてモトの身が危ないと昨日言いましたよね? それに姉さんが一人でウロウロとしている間はじっとしてられません! 早く見つけないと!」
「昨日からこんな感じなのよ」
「なるほど、だから、一緒に探すって事なんだね」

 はぁ〜。
 なんなら、この相方と宿屋に居てもらえないだろうか。
 でも、二人して大人しく待ってるなんて事はできないんだろう。
 私が一人で探し出した瞬間、宿屋から出るに違いない。
 片や、姉馬鹿。
 この相方も馬鹿……いや、姉馬鹿でもあるから、似たもの通しで気が合うかもしれない。

「そういえば、貴方の名前は?」
「あ! そうよね! アタシはスズネ! 何でも屋の看板兼店主をやってます! こっちのオカマは何でも屋の看板の支え棒みたいな者です!」
「支え棒?」
「要らない説明しないでちょうだい。看板だの支え棒だのは忘れて。スズネと私の二人で何でも屋ってだけなの」
「そうですか」
「あれ……なんか反応薄くない?」
「そりゃ、いきなり看板だの支え棒だの言われたらそうなるわよ。まともに自己紹介もできないなんて情け無い」
「別に良いじゃん……そういえば、アンタは何ていうの?」
「モトと言います。探しているのは姉のサキで……え?」
「今、サキって言った?」

 スズネは依頼主であるモトさんの両肩を両手でがしっと掴んだ。
 この相方は本当に……

「ちょっと、急にどうしたの?」
「ちょっとまってて。で?」
「え、えぇ。姉さんはサキと言いますが……」
「じゃ、じゃあ、緑の服を着てて、飛ぶのがモトよりも早かったり?」
「確かに、そうですが……まさか、最近見かけた事が?」
「違う違う! ほら、覚えてない? 一ヶ月くらい前にアタシとサキが門が閉まるギリギリで入ってきた時の!」
「門のギリギリ…………あ! あの時の!」
「そそ! 良かった、思い出してくれて〜。あと、思い出したアタシもナイス!」

 やっと、スズネは依頼主の両肩から両手を退けて、私はほっと息をついた。

「で、どういう事? 話からするとスズネがモトさんとサキさんの知り合いだったって事?」
「そそ! オカマが何でも屋に入る前に猫探しの依頼をした時に知り合ったの! あの時はサキが居なかったらこなせなかったからすごく助かったのよね」
「賄いを食べてる時に言ってたのはこの事だったのね」
「そういう事! 今日の事はアタシに任せて!」

 この子、依頼主と迷子のお姉さんが知り合いって事だけで楽な仕事だって思ってるわね。
 無駄に生き生きしてる。
 目がキラキラとしているし、今にも駆け出して探しに行きたいのを我慢してるのか息も荒いように感じるし。
 見てすぐわかるのはありがたいけど、もう少し節度を持ってほしい。

「スズネさんが姉さんのことを知ってるのは探すのに助かります。それに話したこともあるでしょうし、アテにしてますよ」
「アタシ達にまっかせなさ〜い! アタシはサキの見た目は覚えてるし、すぐに見つかるって」
「また貴方はそんな事を……」

 私は頭に右手を添えた。
 軽々しくそんな事を言うのはやめてほしい。
 なんてか探す手立ては考えてあるが、見つかるとは限らないのに。
 それに、他の何でも屋が投げ出した依頼でもある。
 スズネがサキさんを知っているとは言え、容易に見つかりそうにはない気がするからだ。
 たとえ、見つかっても……いや、考え過ぎないでおこう。
 その方がきっと身のためだ。
 そう自分に言い聞かせて、私はモトさんと話すスズネを見ていた。

「ね、オカマ! 食べ歩きしながらサキを探しましょ!」
「……え、なんで?」
「すみません、実は旅費が底をついてしまって……ご飯を食べていなくて」

 そう申し訳なさそうにモトさんが言うと、お腹が鳴った。
 顔を赤くして、そのお腹を慌てて押さえている。

「ね! 良いでしょ、オカマ」
「……モトさんの分だけよ。スズネはさっき食べてたでしょ。我慢しなさい」
「なんでよ、ケチ!」

 あれだけ食べておいて、ケチとはなんだ。
 いきなり、考えていた事が叶わなくなりそうだ。
 はぁ〜、本当に思い通りにいかない。

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