第二十五話 じゃあ、食べるんじゃないわよ

 

 仕方なく、城門から王城へと真っ直ぐに続くヘミニング通りを進む。
 この大通りは観光客が良く通る道だから、お土産屋やレストランが多く店を出している。
 出店をしているので、食べ歩きにはもってこいである。

「焼きとうころもし、カーナル・サンデーさんの揚げ鳥にイバルコ豚串もおすすめ!」
「そうなんですね! あのあの、金杏きんなんの蒸し焼きはありますか?」
「聞いた事ないけど、探したらあるんじゃないかな? 何せここは王都だからね!」

 いや、貴方が威張る事ではないでしょ。
 自信満々に胸を張るスズネに心の中で突っ込みをいれる。

「ですよね! 是非とも食べてみたいです!」

 そんな二人の話を聞きながら、後ろをついていく。
 とりあえず、スズネが勧めたものを順番に買ったが。

「モトさん、揚げ鳥は食べても大丈夫なの? 種族的な意味で」
「問題ありませんよ。むしろ、獲物を食べずに野放しにすることの方が問題です」

 揚げ鳥を貪りながら言われたので、本当に問題ないようで度し難さを感じた。
 どう見ても共食いに思える。
 言われてみれば、鳥にも肉食が居る。
 同種の死骸があれば、食べると思えば、自然な事なのかもしれない。

「そうよ! そこに食べ物があるのに我慢なんてできない!」
「……何食べてるのよ」
「……アタシ、お金持ってないから」
「じゃあ、食べるんじゃないわよ」

 しかめっ面のおじさんににらまれながら私はスズネの代金も払った。

「帰ったら、お金返してもらうわよ?」
「帰ってもないから、また今度ね」
「じゃあ、賄いの一食は抜きにしてハイネからもらうわ」
「それはダメ! あ、オカマもいる? てか、欲しいからそんな意地悪言うんでしょ? ほらほら」
「要らないわよ、全く。また金もないのに手を出したら、知らないわよ」
「へへへ、ありがと。うーん、美味しい」

 気楽な相方の言葉を「はいはい」と返事をしていると。

「また果物屋で盗みがあったみたいよ」
「らしいな。俺達も気をつけないと」

 さっきの店を切り盛りする夫婦の話し声が聞こえてきた。
 またということは、最近よく起こっているのかしら。
 
(獣人族の件といい、今度は盗みねぇ……)
「モトさん、他に食べたいものある?」
「へ? あー、そうですねー。やっぱり、金杏きんなんの蒸し焼きを食べたいです」
「金杏ね。スズネ、心当たりある?」
「うーん、あると思ったんだけど、見当たらないね」

 さっき、堂々と探せばあるんじゃないと言ってたのに無責任な。
 
「そうですか。故郷ならあるのですが、仕方ないですね」
「……それって、お姉さんも好きだったりするのかしら?」
「はい。故郷ではよく二人で食べてましたから私たちにとって故郷の味です……あ」
「気づいたようね。なら、金杏を買って作ってもらいましょ」

 モトさんは、私の提案に二度も頷いて、ついてきた。
 
「え! なに? 二人して何に気づいたの!?」
「ついてくれば、わかるわよ」
「勿体ぶらないで、教えてよ!」

 スズネも二人に遅れて、ついてきた。

――・――・――・――
 
「迷子のお姉さんの好物である金杏の蒸し焼きの匂いで誘き出そうってことになった訳ね」
「そういうこと!」
「わかってなかったくせにでしゃばらないの」
「いいじゃん別に!」
「お願いできますでしょうか?」
「良いわよ、それくらい。ただ、二人の報酬の二割は私も貰うわよ」
「なんで! そうなるのよ!」
「協力してるんだから、貰って相応よ」
「なら、今日の賄いはタダにしてくれない? 報酬も気持ち増やすわ」
「……それで良いわよ。今から作るから待ってなさい」
「ハイネ、作れるの?」
「なんなら、賄いの代金を今ここでもらっても良いけど?」
「ははは、冗談だってば」

 ハイネは、受け取った金杏の包みを調理場に飛ばしながら、スズネのあおりを蹴散らした。

「こんなやり方で姉さんが見つかるでしょうか?」
「やってみる価値はあると思うわ。金杏は独特な匂いがするし、お姉さんも手元にお金がなくて、お腹が空いてるなら匂いに釣られるかもしれないから」
「ですが……」
「探しに行きたいのはわかるけど、はぐれてからずっと手当たり次第に探してて見つからないなら、一緒よ。今度こそ、私のやり方で探させてもらうわ。文句は見つからなかった時にしてちょうだい」
「……わかりました、お願いします」
「大丈夫、見つかるって! 見つからなかったら、私が王都を駆け回って探してあげるからコイツに任せといて!」
「また適当な事を言うだから……」
「良いじゃん、言うだけタダだし」
「それで痛い目に遭いそうになったでしょうが」
「まーた、始まった。そんなお説教頼んでないから」
「あっそ、痛い目見ても知らないから」
「余計なお世話です〜。自分の事は自分でできますぅ〜」
「はいはい、痴話喧嘩ちわげんか他所よそでやりなさいよ」

「「ふん!」」
 
「いつもこうなんですか?」
「そうね、もう定番」

 カフェのお客さん達もくすくすと笑うように何でも屋の二人を見ながら午後のひと時を楽しんでいた。

「お二人は仲が良いのですね」
「どこが」
「そうやって、言い合えるのはお互いをよく知っているからですし、この人なら強く言っても大丈夫と信じ合えている証拠ですから」
「……そんなはっきりと言われると恥ずかしくなるからやめてもらえる?」

 スズネをチラリと見ると顔を背けた。
 一瞬だけだったが、顔が赤くなってたような。
 
「ご、ごめんなさい。そんなつもりなかったんですが……故郷で私も姉さんによく怒ってて、姉さんは言い返してこずに困りながら笑う感じで。周りからはどっちが姉なんだと言われるくらいで、二人みたいに仲が良く見えたら良いんですが」
「私達みたいにならなくても、貴女達も仲が良いんじゃないの?」
「そうなんでしょうか……こうやって姉さんとはぐれたのはモトの事が嫌いになったからじゃないかってふと思っちゃうんです。いつも姉さんの事を怒っちゃうから嫌気が差したんじゃないかって」

 そっぽを向いていたスズネもモトさんの言葉を聞いていたようで。

「それは無いと思うな〜。それだったら、最初っから二人でここまで来てないと思うよ」
「でも……」
「妹の事をどうでも良いって思える姉は居ないと思うの。アタシにもお姉ちゃんがいるからわかるんだ! なんとなくだけど!」
「……まぁ、少なからず、嫌いな人や信じていない人と二人きりで遠出や旅になんて出ないものよ。むしろ、お姉さんのことをしっかり怒れるモトさんだからこそ、二人で王都に来られたんでしょうね」
「それなら、良いんですが」

 モトさんは手をモジモジとさせていた。
 少し気恥ずかしさを感じているみたいね。

「そういえば、なんで二人は王都に来たの? 何か用があって来たんだよね?」
「は、はい。人探し……と言いますか、物探しと言いますか……」
「へぇ〜、とりあえず、何か探し来たんだよね」
「もしかして、お姉さんとはそれを探している内に逸れたのかしら?」
「はい、二人で探していたんですが、姉さんがいつの間にかいなくなっていて」
「じゃあ、じゃあ、私たちもそれを探してたら、お姉さんにも会えるんじゃない? ね! その探しモノの特徴っなんなの?」
「えっと、それは言っちゃいけないって言われているので答えられません」
「えー! なんで? ちょっとくらい良いじゃん!」

 スズネがモトさんの両肩を持って、揺さぶりだした。
 モトさんは揺さぶられながら、「ダメなんですよ〜」っと言っていた。
 
「やめなさい、スズネ。そんな詮索せんさくしなくても、私の作戦でお姉さんは見つかるはずだから」
「えー、気になるのに〜」
「はい、できたわよ。早く仕事終わらせて、報酬の二割もらうから忘れないでよ?」
「わかってるわ、ハイネ。さ、二人とも行くわよ」
「どこに?」
「城門の見張り台よ」

 ← 前のページ蓮木ましろの書庫 次のページ → 

 

蓮木ましろのオススメ本



コメント

タイトルとURLをコピーしました