「おじさん、ありがと。登らせてくれて」
「いつも美味い酒を飲ませてもらってるからな。これくらいお安い御用だ」
城門に着いた三人は、「インフォマツィーネ」の常連である門兵おじさんを見つけ、なんとか城門の見張り塔へ登れるように話をつけた。
「登らせてくれるんですね」
「スズネがお願いしてくれたからよ。普通は登れないし、中にさえ入れてもらえないもの」
「スズネさん、凄いですね」
「そうね、人と仲良くなるのだけは上手いんだから」
「ちょっと、オカマさん聴こえてるんですけど?」
「おいおい、こんな所で喧嘩しないでくれよ? 俺まで大目玉食らっちまう」
「だそうよ、スズネ?」
「ぐぬぬ、後で覚えてなさいよ」
「こっちのセリフね」
「ふんだ! おじさん、早く登って! 仕事をすぐ終わらせてアイツをとっちめるんだから!」
「そう慌てるなって。こちとら、鎧着てんだから。こう見えて結構キツいんだぜ?」
「なら、アタシが担いであげる!」
「いやいや、流石のスズネちゃんでも……へ?」
スズネは魔力を身体に纏わせると、おじさん門兵をひょいと担いだ。
「オカマ達も早く来てよね!」
そう言い残して、物見台へと続く階段を入って駆け上がっていった。
担がれた門兵おじさんの叫び声がどんどんと離れていく。
「スズネさん、凄い」
「張り切り過ぎなだけよ、スズネは。私たちはゆっくり登りましょ」
「そういえば、なんでこの見張り塔なのでしょうか? 他にも塔はありますよ?」
「この時間帯はこの見張り塔が風上だからよ。ここから金杏の匂いを王都中に飛ばせる。それに獣人族は人間よりも鼻が効くわ。あわよくば、貴女のお姉さんがこっちに向かって飛んできてくれるかもしれないじゃない?」
「な、なるほど」
「もし仮に貴女のお姉さんが方向音痴だったとしても、城門は覚えているでしょうし、多分、うまくいくはずよ」
「それでも、多分、なんですね」
「王都とはいえ、物騒な事はあるのよ。最近は食べ物の盗みも起きてるみたいだし、それに貴女のお姉さんが何かに巻き込まれていなければ、大丈夫のはず……あ、ちょっと!」
「早く登りましょ、シグさん! 姉さんが心配です!」
「わかったから、引っ張らないでちょうだい!」
モトさんを変に焚き付けてしまった。
結局、階段を駆け上ることになってしまった。
ゆっくり登ろうと思ったのに……
最上階に着く頃には私は軽く息をあげていた。
物見塔の最上階は城壁の上と繋がっている。
そこからなら王都も外側も見渡せる。
「もう! オカマ達、遅すぎ! そんなことしてたら日が暮れちゃうじゃん! 早くしないと」
「そうですよ! 姉さんが見つけにくくなります!」
「アタシのお腹も空いてきちゃうんだから!」
「あ、あれ?」
「スズネのお腹はさておき、少しゆっくりし過ぎたわね。ここからは見張りの時間よ」
城壁の縁に金杏の包みを置いた。
もちろん、包みを開けて。
包みから蒸し焼きになった金杏の匂いが立っている。
風を受けて、王都へと漂い出した。
「俺は普通に見張りしてたら良いよな?」
「えぇ。でも、何かいつもと違う動きがあったら教えてちょうだい。門兵さんにも報酬をほんの少しだけ分けるわ」
「へへ、そうかい? なら、小遣い稼ぎにやらせてもらうかな」
「ちょっと! 報酬を餌にしないでよ! 私の報酬が減るじゃない!?」
「ちゃんと私の報酬分から差し引くから安心して見張りなさいよ」
「なら、良いけどさ〜」
「シグさん、モトはもうちょっと高いところから見ても良いですか? あそこにちょうど良く捕まるところがあるので」
二股に分かれた避雷針が塔の屋根。
そのてっぺんに掲げられている。
空に雲はありながら、雷雲はなさそうだ。
「そうしてちょうだい。その方が見つけやすいわ」
「ですよね! 上から見てみます」
モトさんはゆっくりとした袖を翼に戻して、一度羽ばたいただけで避雷針の高さまで舞い上がる。
足も鉤爪に戻っており、掴むように降り立った。
それから私たちは手分けして、王都を見回した。
一時間、二時間と過ぎていく。
一時間が経った頃にはスズネは王都を眺めるのに飽きていて、地べたに座り込んでいた。
「ねぇ、オカマ〜。流石にもうこの作戦は失敗じゃない?」
「まだ二時間しか経ってないわよ。張り込みはこれからよ」
「いや、もう流石に金杏の匂いもしなくなってるしさ。こんなの続けてても無駄だって」
「私達がわからなくても獣人の鼻ならわかるはずよ。そんな駄々こねてないで、貴女も探してちょうだい」
「え〜、もう飽きたんだもん! 見つかったら言ってよ。アタシがそこまで走って捕まえとくからさ」
「なら、そうしてもらうわ」
そこから三十分ほど経った頃にモトさんが。
「見つけました! 姉さんです!」
「どこ?」
「こっちに飛んできてます。よかった、無事で」
モトさんが指している方角に飛んでいる者が見えた。
緑色の翼を羽ばたく鳥人族。
「どこどこ? ホントだ! 見つかってよかった〜!」
「……いえ、安心するのはまだ早いわ」
確かに飛んできているが、その後ろで縄のようなものが見えた。
「あれ、ひょっとして」
「面倒なのに目をつけられたんじゃないか?」
「あ、サキ! そこ危ないって! あーーー!!!」
スズネが城壁ギリギリに立ち上がって、こちらに飛んでくるサキに身振り手振りで危険を教えようとした。
だが、サキの下から飛んできた縄か何かに捕まえられ、建物の影へと飲み込まれた。
「サキ!? オカマ、モトのことよろしく!」
「ちょっと! スズネ!」
私が止める前にスズネはもう壁から飛び降りてしまった。
「モトも行きます! 姉さんを助けないと!」
「駄目よ! 向かってる最中に他の輩に狙われでもしたらどうするの!?」
「でも……」
「良いから、ここにいてちょうだい。お姉さんはスズネが助けるわ」
「俺は常駐してる騎士達に声をかけてくる! こういう時にしっかり働いてもらわないとな!」
「頼んだわ。こうなる前にスズネに待ち合わせ場所を伝えればよかったわね……」
どう飛び移ったのか、スズネは器用に屋根の上に着地していた。
屋根へ屋根へと飛び移りながら、サキが見えなくなった建物の影へと向かっているのが見える。
「仕方ないわね。これを使いましょ」
三本の髪の毛を取り出して、魔力を込めた。
すると黒かった髪の毛が赤く染まり、手の中で赤く光る。
『風よ。我に纏い給え』
体の周りに強風が巻き起こり、体を浮かせた。
体を傾けるとその方向へと滑るように移動できる。
「モトさん、すぐに戻るから待ってるのよ」
「は、はい!」
返事を聞くや否や、スズネに向かって飛んでいく。
髪の毛を三本も使って、起こした強風のおかげでスズネへとあっという間に追いついた。
「スズネ!」
「オカマ!? あー! あの髪の毛使ったんだ! 便利すぎじゃない、それ!」
「そんな話は後でいいのよ。モトさんはインフォマツィーネに連れ戻しておくから、片が付いたら向かってちょうだい」
「わかった! どうせザコだと思うからすぐに連れて帰るね」
「えぇ。門兵さんが騎士に声をかけてくれているからそのザコは任せて、連れて帰ってきてちょうだい。私もモトさんを送ったら、一応、そっちに向かうわ」
「別にアタシ一人で十分だって!」
「スズネは何をやらかすか、わからないからほっとけないのよ。とりあえず、任せたわよ。変な事はしないように!」
「わかってるってば! じゃね!」
スズネは嫌そうに返事をして、建物の影へと入っていった。
この近くなら探すこともできるが、髪の毛の魔力が尽きそうで引き返す。
サキさんを引き摺り込み、スズネが降りていった場所に見覚えがある。
今となっては、そこまで脅威がないにしても危ない場所だった。
「間に合ったわね。……三本でやっとなのね」
なんとか見張り塔に着き、手のひらを開いた。
赤く長かった髪の毛が短くなっていて、その残りがちょうど空気へと霧散していった。
それに伴って、身に纏っていた強風も微風となって、風に溶け込んだ。
「オカマさん、今のって……」
「これは人に話せない事なの。貴女が言えないといった探し物と同じくらいね。さ、ここから降りましょ! 貴女にはインフォマツィーネに居てもらうわ」
「え、でも!」
「大人しく居てくれれば、お姉さんを連れてきてあげるから待ってるのよ、いいわね?」
「わかりました……じゃあ、早くに着くために私がオカマさんを運びます」
モトさんはまた羽ばたかせ、私の上を飛ぶ。
ものすごく嫌な予感がするのだけど……
「いや、だから、それは危ないから」
「もし、下から縄をかけようとしてくる輩がいたら、シグさんが助けてください」
「そうじゃなくて、私がって事で……まだ心の準備がぁぁっ。いやぁ〜〜〜!!」
モトさんの鉤爪で私の肩をがっしりと掴まれ、私まで飛ぶ羽目になった。
両手でテバさんの足首を掴み、怖さのあまり足を縮こませていたのは黙っておこう。

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