行列が進み始めて坂に差し掛かったようで、少し御所車も傾いた。
木々が生い茂り、木の葉の屋根を潜っていく。
御所車が木漏れ日を浴びながら進むこと、しばらくしてゆっくりと止まった。
ちりーん、しゃりーん。
と天明の言っていた鈴の音が鳴り響いた。
「やっとじゃな、二人とも気を引き締めよ」
弓月の言葉に蒼と椿は頷き、弓月の後ろをついていくように御所車を降りる。
降りた所に天明が立っており、言葉なくお辞儀をしてきた。
それに三人もお辞儀した後、津流御祖神社へ向かっていく。
歩調も弓月に合わせ、ゆっくりと進む。
侍たちや貴族たちもお辞儀をして、三人を見送っていく。
鳥居を潜る際には、それぞれお辞儀をする。
そうして潜ると、空気が変わったのを蒼は感じて匂いを嗅いだ。
匂いはしないまでも、澄んでいるような鳥居を境に外と中で違った空気を感じていた。
嗅ぐ音が聞こえたのか、前を行く弓月が軽く振り返り睨みを効かしてきた事で蒼は嗅ぐのを慌ててやめた。
その動きが椿にも分かったようで二人を見るように横合いから顔を覗かせ小首を傾げた。
京内の中には巫女や神主が待っており、本殿前にて三人を迎え入れるように並んでいた。
三人もまた横並びになり、向き合う。
神主と巫女がお辞儀をすると、三人もお辞儀をし、先に神主たちが頭を上げた。
その折に神主たちが手に持っていた大幣。
大幣とは木の棒の先に紙垂を多くこさえた気を祓う道具である。
それを振り鳴らすように左右に三度振り、またお辞儀をする。
神主たちと同じく、やっとのこと三人も頭を上げた。
そこから神主に連れられるように本殿へと入る。
巫女は椿の後ろにつき最後尾。
五人連なり本殿前、祀られる神の御前へと参った。
神主を前に、三人はまた横並びに、巫女は後方へ。
「「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え」」
と唱え詞を言いながらに大幣を振り鳴らす。
後方の巫女も同じく唱えながらに大幣を振り鳴らす。
三人は頭を軽く下げ、蒼に至っては箱を差し出していた。
すると古めかしかった箱がみるみるうちに綺麗になっていった。
大幣の音がしなくなると三人は頭を上げ、箱の変化に驚きながらに神主たちと共に再び礼をした。
また神主と巫女と共に本殿を出た。
「祀る神から御信託を頂きましたので、あちらに有らせられる小川にて八尺瓊勾玉をお清めくださいませ」
「承知致しました。深く感謝申し上げます」
神主と巫女へ礼をすると、弓月を先頭に。
京内の少し奥にある小川へと向かった。
小川のほとりには簾が敷かれ、小さな台も置かれていた。
三人とも下駄を脱ぎ、椿を先頭に簾の上へ。
蒼は組まれたてのようになった箱を開けると数珠繋ぎになった八尺あまりある首飾りがあった。
その一箇所に大きめの勾玉が付いている。
勾玉は少し燻み、日にあたっても光を反射させていなかった。
蓋を台の上に置き、箱を椿へと差し出す。
椿は緊張の面持ちで箱からゆっくりと取り出し、これまたゆっくりと小川の水に浸した。
最初こそ変化はなかったが、徐々に燻みが取れていき、まばゆいばかりに日の光を照り返した。
椿はそれに驚き、目を見開いたがその眩しさ故に薄目になった。
「もう良いじゃろう、こっちに」
弓月の手には麻で編まれた布を差し出していた。
椿はゆっくりと小川から掬い上げると、弓月の広げた麻布へと置いた。
麻布で包み滴っていた水を拭き取り、手に火を宿して水気も乾かす。
麻布ももちろん、八尺瓊勾玉も燃えることはなく、完全に乾かした。
包みを解いて、また椿へと差し出した。
そして、椿が持ち上げ、蒼が持っている箱へと戻した。
蒼は台に置いていた蓋を取り閉めた。
それを見届けると、順に下駄を履いていき、また弓月を先頭に本殿へと向かう。
神主と巫女はずっと待っていたようで、再び前に横並び礼をした。
神主と巫女からの礼を見届けると、列を成して境内から出ていく。
鳥居を出てから向き直り、境内へと礼をする。
御所車は鳥居近くで待っていた。
清めている間に次の目的地に向かえるように行列を整えていたようである。
御所車の側には天明が待っており、礼をしてきた。
三人もまた礼をしてから御所車へと乗り込んでいった。
「ひとまずは、無事に終えれたか」
「はい、緊張しました」
「なんだか鳥居の内と外で空気が違った気がしたんだが、あれは……と言うかこの箱も中身も見違えるように綺麗になったのはどういうことだ?」
「神の御技ということじゃろうな。我も神仏には疎い、天明の言っていた神力だの神水と言った類じゃ。我らのこの姿も季喬様の神力あってのものだからの。妖怪の姿では先の神社も次の神社も入れはしまい」
「敵が妖怪だったら、そもそも神社に入って来れないんじゃないか? 鵺一族の残党かもしれないんだからさ」
「彼奴らの事じゃ。何か仕組んでくるであろう。気を抜かずにの」
弓月の言葉に二人は頷いた。
ちりーん、しゃりーん
と音が鳴り、御所車もゆっくりと進み始めた。
•――•――•
川を渡らなくてはならず、行列は橋を渡っていく。
またも橋を渡り終える前に最前列と最後尾に泥人形が現れた。
「二の舞にはなりませんよ! 貴族の方々、少し場所を空けてください! 先に橋を越えてください、侍の方々も早く泥人形は僕が!」
すぐさま、貴族と侍に場所を譲ってもらい橋をいち早く橋から進行方向へと下ろそうとした。
「天明様、橋の下から!」
侍が指差し先には橋の下からもうすでに泥が這い上がって来ていた。
混乱に乗じて早急に橋を落とすつもりのようだ。
すぐに橋が少し揺れた。
「早く御所車を!」
「モウ! さっきのようにはいかないモウ! 掴まってるモウ!」
牛の妖怪が鼻息荒く、御所車を一気に引っ張る。
踏ん張った勢いと御所車の重みで橋が大きく揺れたが、崩れる寸前で橋を乗り越えた。
橋が崩れたことで橋向こうの侍たちが置き去りになってしまった。
「俺たちの事は良いから政を優先してくだせぇ!」
そう言ってくる侍達だが、悪戦を強いられていた。
「そうはいきません! 故人も怪我人も出す訳にはいきませんから!」
『悪気祓滅』
天明が三枚の人形代を振りがさすと、それぞれが矢のように泥人形へと飛んでいった。
後ろの泥人形はもちろん、最前列の泥人形も蹴散らした。
その勇姿を見て、侍達は拳を突き上げた。
「天明様が居れば、百人力だぁ!」
「やっぱ、俺たち要らなかったろぉ!」
「ばぁか! 俺たちが守ってこそって言ってんだろ!」
侍達が喜ぶ中、天明は安堵のため息をついた。
「橋向こうの方々はすみませんが、戻ってもらってこちらに渡って来てくださ〜い!」
橋向こうの侍達は腕を突き上げて、駆け足で道を引き返していった。
「さ、皆様。行列を組み直して、侍の方々を待ちましょう。侍方の準備が整い次第、出立致します」
騒ぎで乱れてしまった行列を整え始めた。
(やはり、一筋縄では行かんでおじゃる……かくなる上は最終手段でおじゃっ!!)
歯噛みし、手を硬く握り締めた貴族はその内心を隠しきれないでいた。
「弓月様」
「どうにか騒ぎを片付けたようじゃな」
「はい、これ以上は迷惑を掛けられませんから」
「よくやった、次の目的地まで引き続き頼むぞ」
「はい!」
天明が御所車越しに弓月と話していると、後方の侍達が戻ってきた。
侍達が息を整えるのを待ち、行列は次の目的地。
津流別雷神社へ歩を進めていった。
| ← 前のページ | 蓮木ましろの書庫 | 次のページ → |

コメント