第四十話 津流別雷神社

 

「あれから問題なく着きましたね」
(橋があったのにも関わらず襲撃がなかった……となれば、ここで一気に襲ってくるかもしれませんね)
 
 津流別雷神社つるわけいかづちじんじゃに着いた行列は歩を止めた。

 ちりーん、しゃりーん。

 天明てんめいが鈴を鳴らすと御所車ごしょしゃから弓月ゆみづき達三人が降りてきた。
 天明もそれを待ち構えて、礼をした。
 弓月達もまた礼をして、礼をした貴族達や侍達の真ん中を通っていく。
 件の貴族の前を通った時にはなにも動きはなかった。
 鳥居の前へ行くと三人は礼をして潜って境内へ入っていった。
 それを見送ると、貴族達も侍達も頭を上げた。

「それでは皆さん、行列を平穏御所へいおんごしょへと向き直ります。並び直してください」

 天明がそう呼びかけをした時である。
 周りの木々が揺れ、影が伸びてきた。

「天明様、また出てきましたよ」
「やはり出ましたか……今までと数が違いすぎますね」

 周りの木々の影から次々と出てきた。
 神社を背に取り囲まれてしまった。
 貴族を守るように侍達が前に出てきた。

「ひぃ〜! 助けてたもれ〜!」
「ええい! 今回の藤祭ふじまつりはなんとおぞましい! 天明なんとかせんか!」
「言われずとも」
悪気祓滅あっきふつめつ!』

 さっきよりも五枚の人形代を取り出しかざした。
 千切きぎれた紙屑かみくず達が矢のように手前の泥人形達へと飛んでいく。
 それでもまだ木々の影から出てきた。

「これはまた大盤振おおばんぶいですね〜……」

 チラリと件の貴族がいた所を見ると姿が見えない。
 辺りを見回すと、神社の敷居ギリギリを泥人形の合間をってもう一つの入り口を目指しているようであった。

「しまった、そっちが本命ですか! ここは僕も踏ん張りどころですね!」

 右手を左の袖口に、左手を右の袖口に突っ込んだ。
 同時に出した手には握れるだけの人形代があり、自分の周りにばら撒いた。
 ばら撒かれた人形代は白い人型になり、泥人形へ向かっていった。
 そして、天明は再び人形代を掲げ、泥人形を倒して貴族を追う道を開いた。

「すみません、少し離れます!」
「天明様! どちらに!」
「式神を置いていきますからうまく立ち回ってください!」

 件の貴族を追いかけ、神社のもう一つの入り口へ向かう。
 曲がり角を曲がると貴族が入り口の前で立っていた。
 ここまでのたくらみを仕向けた葵原あおいはらと呼ばれる恰幅かっぷくのいい貴族である。

「よくも麻呂まろの邪魔をしてくれたでおじゃるな」
「企みを阻止しようとするのは当たり前です、葵原様」
「……あの庭師をよく救う事ができたでおじゃるな? 野垂のたぬと思ったでおじゃるが」
「ある方が治してくださいましたからね」
「ほう……それはそれは良い妖術を使う者がおるでおじゃる。もしや、九ノ峰大社くのみねたいしゃの巫女の中に居るでおじゃ?」
「例えそうでなくとも、貴方はここまでですよ!」

 天明は九尾の尻尾だけを葵原へと伸ばし、巻きつけようとした。
 だが、その身体は土のように崩れた。
 崩れる顔はにまりと笑っていた。

『まさか、こんな単純なやり方で結界を越えられるとは思わなかったでおじゃる。天明、結界を作り直すでおじゃるな』
「どこにいった! っ!?」

 崩れた土の山に近づき、入り口の方へと向くと地面が盛り上がっていた。
 どうやら土の中から結界を潜ったようだ

「あの者もそうやって平穏京に入ったのか……土の中とは盲点もうてんだった。だが、これは……」

 結界が弱まってきていた。
 じゃの者が入ると思い通りに動けない事を貴族は知っているようであった。

「くっ、まつりごとでなければ迷わず入ったのですが」
「天明様! 早くお戻りを! 苦戦をいられています」
「……中のことは皆さんに任せましょう……今行きます!」

 天明は仕方なく、行列の元へと戻っていった。

・――・――・

 弓月達は神主と巫女に対面し、本殿へと入ろうとしているところであった。

「待て、何か来るぞ」

 弓月が静止を言うと、神主かんぬし巫女みこ椿つばきは困惑した表情を浮かべた。
 あおは弓月同様に気配のする方へと向き直る。

「椿、箱を持っててくれ」
「わ、わかりました。どうしたんですか?」
「敵が来たみたいだ」

『さすがは九ノ峰大社の巫女。バレてしまっては仕方なしでおじゃる』

 弓月と蒼が視線を向ける地面から声がしたと思うや否や。
 地面が盛り上がり、地中から砂や砂利を押し除けるように葵原が出てきた。

「土の中へ引きり込んでやろうと思ったでおじゃるがな」
生憎あいにくとお前ら一族の妖気は嫌でも覚えておる。そんな小細工こざいくは通用せん」
「ほう? あの大乱での生き残りか? 大抵たいていのものは怨恨半おんこんなかばで死んだはずでおじゃるが……いや、待てよ。お主、まさかっ!?」
「気づくのが遅いぞ!」
炎気えんき 爆炎ばくえん!』

 握り拳を葵原へと振りながらに手を開いた。
 すると突如とつじょ、葵原がぜる炎にまれた。
 その音や熱波を弓月以外は着物で避けていた。
 蒼は目を離すことなく、爆ぜた炎の中に目をらすと炎の中に土の山があるだけであることに気づいた。

「ちっ、こそこそと」
『おほほほ、念の為にと土塊どかいにしておいて良かったでおじゃる』

 またも葵原は地中から這い出てきた。

「まさか、仇敵きゅうてき黒狼こくろう。しかも、そのかなめである弓月みづからがいるとはまさかまさかでおじゃる」
「仲間の黒い霧から話は聞いておったんじゃろ? 早々に気付けてもおかしくはなかったはずじゃ」
「何を言う、姿が違いすぎるでおじゃろう? それに麻呂はお主とは初対面。分かる訳あるまい……じゃが、その忌々いまいましい炎の妖術と容赦ようしゃのなさ、三百年前に聞いた通りでおじゃる」
「百聞は一見にしかずという、その身を焼かれればいやおうでも思い知る事ができるぞ」
「やってくれても良いでおじゃるぞ? この身体も土。そうでなくとも九ノ峰大社の巫女が平穏貴族に手を掛け、あまつさえあやめたとなれば、九尾もさぞ生きづらいでおじゃろう、おほほほ」

 その笑い声がかんさわったか、蒼がにじり寄ろうとした。
 しかし、弓月はそれを止めた。
 
「無駄に頭と口の回るやつじゃ」
「褒め言葉としてうけとるでおじゃる。さて、無駄話はこれくらいにして大人しくそれを渡してもらおうか」

 葵原はゆっくりと椿の持つ木箱を指差した。
 指を差されて、椿は抱きかかえる。

「出来ぬ相談じゃ。それに欲するならば奪うのがお前達の性分しょうぶんではなかったか?」
「その性分に麻呂は同意しかねるでおじゃる。じゃが、こうなれば仕方ないでおじゃるな」

 葵原がゆっくりと腕を広げるのを見て、弓月と蒼も身構えた。

「ん? なんだか、雰囲気が……」
「どうした、蒼? もしや!」

 蒼が鼻をひくつかせたのを見て、まさかと弓月は辺りを見回した。
 天明が張ったであろう結界が弱まっているのと同時に妖気が辺りから感じられるようになった。

「わあぁっ!」
「きゃあーっ!」
「危ないっ!!」

 弓月と蒼が辺りの異変に気を取られている間に後ろが騒がしくなった。
 振り返ると、神主は腰を抜かして後退りし、巫女は盛大にこけていた。
 椿は……

「椿っ!」

 箱ごと泥に呑まれてしまい、苦しそうに顔をしかめていた。

「おほほほ、麻呂ばかりに気が向きすぎでおじゃる。この神社が安全である保証などありはしないでおじゃるのに」
「貴様っ!」
「おっと、動かないでない。その巫女がどうなっても良いでおじゃるか? それに周りを見てみろ、麻呂の泥人形が襲うでおじゃるぞ?」

 いつの間にか四人の周りを泥人形達が囲んでいた。
 
「そうでなくとも、窒息ちっそくさせるつもりじゃろうが!」
「いやいや、そんな勿体無いことはしないでおじゃる。その泥は生きておるでな。えさになってもらうだけでおじゃる。そろそろ溶かされ始める頃……ほう?」

 葵原は思いがけないものを見たように泥に呑まれた椿を見た。
 溶かされることなく、姿を維持している事、それに興味が湧いたのか目を輝かせた。

「ほほほほ! これはこれは、面白い! その巫女と箱共々、麻呂が貰い受けようぞ! おっと、動くな? いつでも殺してやれるでおじゃるからな?」

 椿を呑み込んだ泥がゆっくり葵原へと近づいていく。
 蒼はそれを歯噛みし、握り拳から血を流して眺めるしかなかった。

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