第四十三話 政の終わり

 

 無事に藤祭ふじまつりを終え、一夜いちや天明てんめいの家で過ごしていた。
 もう見張みはばんは要らないと思われたが、念の為にと蒼が家の外で一人見張りをしていた。

あおさん、お疲れ様です」
椿つばき?」
「なんだか眠れなくって」

 家の外には長椅子が置かれており、蒼の横に椿も座った。

「それでも、横になってた方がいい。あんなことされたばかりなんだから……」
「自分でもわかってるんですけど、横になってると逆に不安になっちゃうんです」

 右手を左手で包むようにしているが、その両手は震えていた。
 心なしか、声も少し上擦っていて不安なのがありありと伝わってくる。
 それを見て感じて、蒼はうつむいた。

「すまない。守ると言っておきながら、守ってやれなかった。弓月ゆみづきと俺が居ながら、二人して敵に注意を向け過ぎた」

 そう言われた椿は首を振って続けた。

「いえ、あれは誰にもわかりませんでしたよ。まさか、神社に流れる小川おがわの中にあんなのが流れてくるなんて……それに神主さんや巫女さんが気が付かなければ、私も気がつかなかったし、助けられませんでした」
「こう言っちゃなんだが。椿がかばえてなかったら、二人ともあの泥溶かされてたな」
「そうですね、想像したくないですけど」
「そういや、神器じんぎのおかげで助かったのは見てわかったけど、なんでああなるってわかってたんだ? 俺はあんな話聞かなかったし、弓月も驚いてた」
「あれはどういう訳か、季喬ききょうさんの声が聞こえてきて……『神器を握って、妖力を込めるようにしなはれ』と言われて、言われた通りにしたら泥が浄化されたんです」
「そういう事だったのか……季喬にお礼を言っておかないとな」
「私もちゃんとお礼を言いたいです。あと、蒼さんにも」
「いやいや、俺は椿を守れなかったんだから礼を言われるような事は」

 慌てたように蒼は椿を見るが、椿はもうふるえを止めて真っ直ぐに青みがかった目をみていた。

「あの敵をお二人で倒してくれたんですから、お礼を向けられてもおかしくないですよ。ありがとうございます。蒼さん倒してくれて」
「……ああ。次は椿をしっかり守って倒すからな」

 その視線に応えるように真っ直ぐと椿の赤いひとみを見つめ返して、決意を述べた。

「はい」

 椿は優しく微笑み返した。
 その後、話した事で椿は落ち着いたようで寝床へと戻っていった。
 一夜明けると弓月と椿は元の姿に戻り、萃蓮すいれんが大いに喜んだ。

「弓月が黒くなった! かっこいい、萃蓮も黒い狐さんになりたい!」
「変化の術を覚えたら好きな姿になれるが、我は萃蓮の白い毛も良いと思うぞ」
「弓月がそう言ってくれるならいいや。萃蓮はお母様みたいになりたいから頑張るっ!」
「お母様……そう言えば、萃蓮ちゃんのお母様って……?」
「椿はなんか思ってたのと違う……つの、痛くない?」
「大丈夫ですよ。もう痛くないですから」
「そっか、早く治るといいね」
「ありがとうございます」
 
 そんなやりとりをした後、椿が用意してくれた朝ごはんを食べた。

「私も二人と一緒に行きたいんですが……」
「良い良い、椿は家のことを頼む。天明てんめいも朝廷へ報告へ向かったし、菊左衛門きくざえもんだけでは萃蓮を相手しながらでは何も出来そうにないしの」
「一言、お礼だけでも伝えたくて……」
「我から言うておくから安心せい。それに椿が萃蓮の相手や家の事をしてくれている方が季喬様や天明のためになる。だから、こちらの事を頼む」
「わかりました……でも、なんでそれが季喬様のために? 天明さんのためになるならまだしも……」
「なんじゃ、まだ気づいておらんのか? 萃蓮の母親は……」
「お母様がどうかしたの?」
「えっと……もしかして、萃蓮ちゃんのお母様って季喬様?」
「そうだよ! ねぇ、お母様の所に行くなら萃蓮も連れて……」
「「えぇ〜〜〜!!!!」」

 天明の仮家かりいえで蒼と椿の声が響いたのは言うまでもなかった。

・――・――・
 
「なんじゃ、蒼も気づいていなかったのか」
「そもそも、俺はそんなに関わってないからな。母親が誰とか父親が誰とか考える余裕もなかったし」
「それもそうじゃな。蒼はそういう事を気にする事もなさそうじゃしな」
「流石に俺も気になるさ」
「さて、どうじゃろうな」
 
 たわいない話をしながら二人は季喬の下へと向かった。

・――・――・
 
「二人ともきたか。此度の事、ご苦労様。おかげで楽できたわ」

 季喬の下へ着くと、垂れまくすだれもあがった状態でそのまま季喬の姿が見えていた。
 心地良さそうに扇子を扇いでいた。

「それは良かったです。私も久々に身体を自由にできました。ありがとうございます」
「ここから見とったわ。思い切り妖術を使っとったな。蒼もしっかりと抜魂糸ばっこんしを使えておったな、ようやった」
「ああ。でも、もっとうまく扱いたかったな。一回で当てれなかった」
「ふふ、あれを狙うてやったんじゃなかったのかえ? 精進しょうじんあるのみや、旅の中で修業し〜」

 抜魂糸を上手く扱えなかった事を不服に思いながら蒼は軽く頭を下げた。

「季喬様、椿を助けて頂きありがとうございます。椿も直接伝えたがっておりました」
「良い良い、むしろ好都合やった。あの泥は弓月の炎でもなんとかなったやろうけど、妖力を使い過ぎてもう出たやろうからな。どちらにせよ、椿に神器を使わせるつもりやったんよ」
「左様でしたか、我らからもお礼を申し上げます。ありがとうございます。ところで、そろそろ蒼に身体を返しても良いのでは? 此度の件も無事に終わりましたので」
「なんや、もう身体を独り占めせんでええんか? それとも妾と話すのが飽きたんかえ?」
「いや、そういう事ではなくてですね……」
「ふふ、身体の事なんやけど、妾なりに考えがあってな? 弓月、ここに入るための勾玉を出してくれるか」
「は、はい。これですね、どうするのですか?」
「そこに面白い術を込めて……」

 扇子を閉じて、手を弓月へと向けた。
 弓月が胸元から出した勾玉に術がほどこされ、白い勾玉は白く光った。

「これは……」
「これでその勾玉へ妖力を込めるとわらわの神力へと変えてくれるようになったわ。それに弓月と蒼だけに仮の身体を生み出してくれるようにしておいた」
「神力って、そんな事ができるのか」
「これでも妾の努力が実った術やからな。一朝一夕いっちょういっせきでは出来ひんよ」
「私が来るのを待っていてくださったのですね」
「最初からそう言うとった。さ、蒼の魂を体に戻したるから試しにやってみてみ」

 季喬は抜魂糸を出して、蒼の魂を引き抜いた。
 引き抜かれた蒼の魂はそのまま弓月の身体へと戻した。
 蒼が入っていた身体は白い玉になり。
 季喬へと戻っていき、九つ目の尻尾となった。

「やってみます」

 弓月が勾玉へと妖力を込めるとまた光り、そこから白い糸が無数に出てきて身体を作り出していった。
 そこへ青い人魂が入っていくと、姿が見る見ると変わり、いつもの蒼の姿になった。

「どうだ?」
「なんか妙な感じだが、悪くない。妖力が心許ないから戦えなさそうだ」
「日々、妖力を少しずつ込めていくとええ。そうすれば身体も安定するわ。それに妖力を妾の神力へ変えとるから抜魂糸が使える。蒼の魂にある妖力を使えば、妖術も使えるって事や」

 そう言い終わる頃に神力で作られた身体がとかれた。
 青い人魂も左肩へと戻った。

「それに勾玉に神力が溜まろうとも元は蒼の妖力やから、他の妖怪にも半妖にも悪影響は出んから安心しぃ」
「何から何までありがとうございます」
「お礼は良いから、また頼みたい事があるんやけど、ええな?」

 季喬は広げた扇子で口元を隠しながらその頼み事を話したのであった。

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