第九話 贅沢言わないでちょうだい

 

 鳥人族姉妹ちょうじんぞくしまいの添い寝騒動はすぐに落ち着き、明日の旅路の準備となった。
 ハイネさんのまかないのおかげでスズネの機嫌は治ったのは大きい。
 難癖なんくせつけて要らないものを買わされそうな気がしていたから無駄な出費が減るのは大変ありがたい。

道中どうちゅう野宿のじゅくになるでしょうからその準備はしておきたいわね」
「鳥人族の里って、そんなに遠いの?」
「ここから六日はかかったはずよ」
「六日〜? 途中に村があったりしないの? 二日に一回はベッドで寝たいんだけど」
贅沢ぜいたく言わないでちょうだい。旅費も怪しいのになんてもっての外よ。帰りだって怪しいんだから」
「なんで、そんな貧乏なのよ! 日頃、依頼をこなしてるってのに!」
「そんな文句を言うなら、食べる量を減らしてくれないかしら」
「それは無理な相談っ!」

 スズネが毎食お腹腹八分目にひかえれば、それだけかなり食費は抑えられるのに。
 私がそう思って頭に手をえていると、サキが控え目に手を挙げた。

「あの、よろしいですか?」
「はい、サキ!」

 カウンターに四人並んで座っている。
 私、スズネ、サキにモトの順である。
 
「移動方法はどうなさるおつもりですか?」
「どうするおつもりですか?」
「でぇすか〜?」

 最後の一人のウザさに少しイラッとしたけれど、堪えた。

「馬車も考えたけど、そもそも鳥人族の里へ行くものがなかったのよね。だから、当然徒歩」
「いや、馬車一択よね?」
「話を聞いてたのかしら、この大食い女は」
「人間の方々がモトたちの里に来ること自体が稀なことですからね。馬車が出ないのは当然かと」
「そうよね。わざわざ出向くのは旅人か物好きくらいでしょうし、仕方ないわね」
「モト達も空が飛べますから、馬車を必要としてませんしからね」
「じゃあ、サキ達に運んで貰えば良くない!? ワタシは楽できるし、サキ達も歩かなくて済むしさ! もちろん、オカマは歩きね」
「なんでそうなるのよ、それにサキさん達を馬車みたく言わないの」
「えぇ〜、どう考えても名案じゃない? ね、サキ?」
「はい。元はと言えば、私のせいで御足労をかけてしまうのですから私達からもご提案します。それに里まで一日とかからずに帰ることができますよ」
 
 そう言ったサキの後ろでモトも力強く二回も頷いていた。

「ほら、サキ達もこう言ってるわけだし、決まりっ!」
「……そうね。サキさん達が良いと言うならお願いしようかしら」
「やった〜! これで楽に報酬が手に入るって事が確定したっ!」
「それが本音よね」

 はしゃぐスズネにため息をついた。
 依頼主の前であからさまに報酬を喜ばないでほしいんだけど、サキさん達も気にしてないようだから今回は言わないでおこう。

「依頼主の前で報酬を喜ぶもんじゃないわよ?」

 まさか、ハイネさんが代わりに言ってくれるとは、この際だから黙って頷いておこう。
 
「良いじゃん、別に!」
「心証が悪くなるのよ、そういうのは。あそこの何でも屋は楽で報酬の良いものしかしてないとか、報酬を多くもらってるならがめてやろうかとか考える輩もいる事を知っておきなさい」
「ハイネのお店の人はそんな事をする人は居ないもん!」
「そりゃ、私の店でそんな事を企む奴はつまみ出すけど、他でもしないように日頃から気をつけなさいって事よ」
「ハイネはアタシのお母さんか!」
「違うけど?」
「いや、わかってるし!」

 ハイネさんとスズネのやりとりを皮切りに、旅荷の準備に取り掛かることにした。
 サキさんが言うには一日とかからずに里へ着くとのことだから、荷物は少なく済むだろう。
 問題なのは滞在費だろうから余裕は持っておくべきだ。
 そう考えると買い足す物はリュックくらいで、着替えの衣服も家にあるもので良い。

「準備に一日も必要だったかしら?」

 思わず、ひとりごつ。
 朝食を食べて、リュックを買った。
 そのリュックに自前の服や櫛、あれやこれやを詰めるだけ。
 昼食を食べる前までに荷造りを終えてしまった。
 いや、これは私が男だから早いのであって、スズネ達はまだ終わってない気がする。
 案の定、リュックを買った時に別れたきり、家に戻ってきていないのだ。
 まだ買い物をしているのかもしれない。
 でも、そんなに買う物があるだろうか。
 滞在日数がわからないのは少し不安な所ではあるけれど、スズネは服の余裕はある。
 サキさん達も里へ帰るだけなのだから、そこまで買う物もないと思うが……。
 サキさん達の宿屋にも寄ると言っていたからそれで遅れているのかもしれない。
 そんな事を考えていると玄関の方が騒がしくなり、部屋にスズネが入ってきた。

「オカマ〜! 荷物が多いから手伝ってほしいんだけど〜?」
「手伝うって何を?」
「アンタ、サキ達に手ぶらで帰らせるつもり? お土産を持たせてあげないと可哀想でしょ?」
「貴女、まさか……」
「ふふふ、スズネセレクトで色々と良いものを持たせたから問題な〜し! ちょっと買い過ぎたから持って上がるの手伝ってほしいんだけど」
「私の手を借りたいって時点で、ちょっとじゃないわよね?」
「いいからいいから」

 私が仕方なく立ち上がると、スズネは二マリと笑って先に部屋を出ていった。
 遅れながらについていき、玄関を出た。
 玄関を出てすぐにはベランダ上になっているから下へ目をやると、そこには荷台いっぱいに物が積んである。
 荷台のそばには被せていた布としばっていたであろうひも
 姉妹の姿と駆け寄ったスズネがいた。

「なんて量を買ってるのよ」

 案の定、「ちょっと」どころではない。
 よくよく見れば、食べ物が多いように見える。
 それも一個二個と可愛い数ではない、木箱に入っているものまである始末だ。
 これをどう運ぶつもりかしら。

「そんなとこで見てないで降りてきて!」

 下からえてくるしょく化身けしんが何かを言っている。

(文句は下に降りてからにしましょ)

 下に降りてからは私とスズネの口論になった。
 スズネ曰く、鳥人族の人たちに王都の食べ物を知ってほしいと言うことでお土産を選んだそうだ。
 選んでいる折に自分も食べたくなって余分に買ったのもあるけどなどと余分な事まで供述していた。
 
「木箱の中身はなに? どうやって運ぶつもりなの?」
「里のみんなが喜ぶものだったのでたくさん買ってしまいました。もちろん、私達が運べるように選んでいるので安心してください」

 とサキさんが言うので、納得した。
 姉妹二人に手段があるなら構わないけど、どうするのだろう。
 木箱の中身は外に置いていても大丈夫なものと言うことで荷台に乗せたまま。
 木箱の上には他にも外に置いていても大丈夫なものを置いて、布を被せて紐で縛った。
 外に置けなかったものはと言えば……。

「流石に屋台の料理は明日明後日にはダメになってるでしょうからどうにかしないと」
「うんうん、なんとか全部食べちゃわないとね」
「最初からそのつもりね、その口ぶりは」
「だって、サキは王都に来てからというもの一文なしで迷子になってたんだよ? 可哀想過かわいそうすぎる……だから、アタシとモトで食べられなかったあれやそれやを買って来たって訳!」

 腰に手を当て、胸を張るスズネは褒めても良いわよと言いたげだった。

「そのお金はどこから出てきたのかしら?」
「モトがほとんど出してくれた!」
「ほとんどって、どうせ全部でしょ? これは報酬から差し引きね」
「えぇ〜! そんなことないよね? ね、二人とも?」
「はい、あくまでスズネさんは私達のためにと考えてくださいましたから大丈夫でございます」
「少しはスズネさんも出してくださいましたし、それに買い物に付き合ってくれましたから」
「ほらね!」
「いや、これは言わせてるでしょ」

 結局は今日中に買ってきたものを食べ終えたのだった。
 あと、報酬に関してはスズネの目と耳が届かないところで話をすることにした。
 流石に今回のはやり過ぎだ。

「ちょうどお昼だし、屋台飯パーティーにしよう!」
 
 スズネの案で屋台飯パーティ。
 机の上に山盛りに置かれた食べ物を四人で食べていった。
 流石にお昼で食べ切る事はなく、晩御飯もその残りを食べることとなった。
 鳥人族姉妹の寝床は私のところではなく、スズネと一緒に寝る事になった。

「二日も一緒に寝かさないから!」
「別に一日目も一緒に寝たかった訳ではないわよ」
「どうだか! さ! 二人とも一緒に寝よ!」
「おやすみなさいませ、シグさん」
「おやすみなさい」
「ええ、今度はしのび込まないように」

 姉妹はスズネより先に部屋へ入った。

「べっ!」
 
 扉を閉める前にスズネが舌を出してきた。
 嫌悪感を示してきたのだろうが、なんて事はない。
 軽く鼻で笑って、私も自分の部屋へと戻った。
 スズネの部屋からは談笑だんしょうが聞こえてきたが、しばらくして静かになった。
 今夜は何事もなく眠れそうだ。

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