黒狼記

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第四話 宿屋からのお礼

朝日で辺りが明るくなる頃。 なんの変わり映えしない朝の訪れを椿つばきは寝起きのぼんやりとした頭で感じ取っていた。「なんだろ、このふさふさともふもふしたのは……気持ちいい」 寝ぼけて顔の横にある触り心地の良いものを触る。 抱きしめながら、優し...
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第三話 新月の夜に

月の光はなく、暗闇くらやみが包み込んでいた。 今宵こよいは新月しんげつ。 外はもちろん大部屋の中も暗闇に包まれている。 二つの寝息寝息が規則正しく静かに聞こえてきていた。 だが、その二つだけである。 大部屋にいた他の客たちは息を殺して、暗闇...
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第二話 一時の休息

蒼あおの方向音痴さを披露はろうした後も二人は街道を歩いていく。 お昼時には、街道を少し離れて荷物を解いた。 持たされていた簡素かんそな昼食を食べた。 中身は海苔のりの巻かれたおにぎりである。「美味いな」「ですね。……あ、梅干しが入ってました...
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黒狼記 弐 九尾に化かされるようです

第一話 昔話 と 旅路  九つの峰みねがある山。 伏見ふしみと呼ばれるその土地には穢けがれ知らずの本殿ほんでん。 九つの峰には、九つの社があると言われている。 この大社には九つの尾を持つ神が住まうとされ、気に入られれば願いを叶えてくれると立...
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第二十六話 旅支度と旅立ち

鉄慈てつじから椿つばきを旅に連れていく許ゆるしをもらった次の日、蒼あおは春芽はるめと夏葉なつはに連れられ、村の市場で旅に必要なものを買いに出ていた。「あおさん、これなんてどうでしょう?」「あお! これなんてどう!?」「えっと、とりあえず、二...
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第二十五話 家族、水入る?

獄舎ごくしゃから政元まさもとの家へ帰ってきた弓月ゆみづきは踏石ふみいしの上を見た。 そこには出て行く前にはなかった一組の草履ぞうりが増えていた。「む、この草履は……」 弓月も草履を脱ぐとそのまま、鉄戒てっかいと椿つばきの部屋へと足を伸ばした...
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第二十四話 けじめ

弓月ゆみづきは「悪い奴が捕まっとる場所」である獄舎ごくしゃーー現代で言うところの刑務所ーーへと向かう。 門を出て右へ。 しばらく歩いて、突き当たりを左へと曲がった。 すると、家々が立ち並ぶその奥に木で作られた塀へいが見える。 その塀の中では...
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第二十三話 騒がしい朝

夜が明けて、襖ふすまの開いている部屋の中を陽ひの光照らし出した頃に蒼あおは目を覚ました。  雀すずめの囀さえずりも聞こえてくる。 少し辺りが騒さわがしい気もするが、そこまで気になる程でもなく、むしろ、心地良さを感じていた。 一人で居るよりも...
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第二十二話 折れた角の事情

村までの道のりで蒼あおと椿つばきの間で会話はなかった。 村に着く頃には、空は星が見える程に暗くなっていた。 村の中は静かで、村の人たちの寝息が聞こえてくるのではないかと思えるくらいである。 その中、足音と荷台を引く音だけが響いていた。「さて...
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第二十一話 戦いの後

「蒼あおさーん! 多分、この辺りだと思うんだけど……」 椿つばきは軽鎧の者たちと合流して、また茶屋の裏手の竹林に戻って来ていた。 蒼の助けで山を降りようとしていた所に軽鎧けいよろいのものたちと出会でくわして、茶屋へと案内した。 竹林の入る手...