第十一話 丘の鳥居

 丘の上の鳥居とりい
 久家神社ひさけじんじゃの入り口にある石造りの鳥居と似ているが、その大きさは二回りほど大きい。
 更子さらこが鳥居の前に立ち、鳥居の先にある飛駕山ひがやまながめていた。
 そこに階段を上がって来たあお椿つばきが歩み寄った。

「随分と大きいですね」
「飛駕山をまつる鳥居、通ずる鳥居でもありますから」
「通ずる?」
「山をご覧になってくださいませ、所々に白っぽいものがお見えになりませんか?」

 更子に言われた通りに二人も飛駕山を眺める。
 本殿ほんでんからは気にならなかったが、鳥居は確かに大きくそびえ立つ飛駕山へと向かい建立こんりゅうされている。
 白っぽいものは麓付近ふもとふきん中腹ちゅうふく付近、八合目はちごうめ付近の三ヶ所に見えている。

「確かに、ぽつりぽつりと見えますね」
「あれはこの鳥居と同じくらいのもので、通じているんです」
「そうなんですね……えっ!?」
「ふふ、正しく言うとげないと通じないんですけどね」
「どういうことだ?」

 椿と蒼が更子の言葉に頭を傾げていると、口元を隠して笑った後に更子は鳥居へと手を触れた。

「見ていて下さいませ」

 目を閉じた更子がいくばくか、薄らと白さをまとうと鳥居も反応した。
 鳥居の中が少しずつぼんやりと薄い膜のようなものが出来上がっていった。
 
「これで飛駕山の麓にある鳥居と繋がる……はずなんですが、今はかなり不安定で通じているか怪しい状態でして」

 更子はほおに手をえて、なやましそうに鳥居のをながめる。

「えっと、繋がってないんですか?」
「そうなんです……繋がっていれば、繋がった鳥居の景色が映るんですが、この通りで」

 鳥居の中に張った薄い膜は白んで何も写してはいなかった。

「これで入れば、どうなるんだ?」
「わかりません。どこか違うところに出るかもしれませんし、この中に閉じ込められるかもしれません」
「それは危険ですね」
「夫が「通れるようにする。ついでに、悪さをしている妖怪を退治してくるよ」と言っていたのにこの体たらく。前よりかは繋がるようになってるので頑張りはわかりますけど、もう」

 ため息をついて、少しだけうつむいた。

「少しは御三方おさんかたの助けになればと思っていたのですが、申し訳ありません」
「いえいえ、私の方こそ頭数に入ってるのが少し気が引けるくらいですから」
「え、そうなんですか? 私はてっきり」
「私は道案内というか、治癒ができるだけで戦えないですし」
「……十分、立派ではありませんか?」
「え?」

 鳥居から手を離した更子の言葉に頓狂とんきょうな返事をする椿。
 更子は蒼に視線を向けた。
 本当のところはどうなんですか?と聞かんばかりに。
 
「ああ、十分助かってる。俺の怪我も手合わせした相手の怪我も治してくれた。戦える以上に凄いことをしてる」
「ふぇ?」
「なら、問題ありませんね。なんでしたら、物凄く心強いです。蒼さんは良いお相手を見つけましたね」
「びゃ!」

 蒼の素直な言葉と更子の何気ない言葉でまた顔を赤くした。

「俺には椿が居てくれないと困る」
「はわ……」
「おっと、どうした?」
 
 追い打ちにより、椿がふらりと倒れそうになったところを蒼が受け止めた。
 ひょうの所で脅迫きょうはくじみた後押し、先ほどの背中を摩ってくれた事があったからこその蒼の言葉であった。

「ちょっと、た、立ちくらみが」
「ふふ、それは大変ですね。今日のところはお休みになって明日にでも出立されると良いですよ」

 椿の照れ具合に更子は面白くて、つい袖で口を隠す。
 蒼は何がおかしいのかわからずにいた。

「またおぶろうか?」
「い、いえ、歩けるので大丈夫です!」
「では、離れに戻りましょうか」

 また更子が先導して、離れへと向かう。

「本当に大丈夫か?」
「だいじょうぶです」

 自分がどれだけ思っているよりも蒼の支えになっているのがわかって照れてしまった。
 椿の顔はまだ火照って、頭を上げられそうになかった。

「お二人はどこでお知り合いに?」
「……椿が看板娘をしていた茶屋で知り合った。もうなくなってしまったが」

 蒼の申し訳無さそうな声と、茶屋で起きた事を思い出し、椿は少しだけ火照りが冷めた気がした。
 
「あら、やぶからへびでしたか。すみません、辛いことを聞いてしまいました」
「大丈夫だ。更子が気に病む事じゃない」
「ありがとうございます。蒼さんは優しい方なんですね」
「そうか?」
「だからこそ、椿さんも傍に居てくれるんだと思いますよ?」
「そうなのか?」

 蒼が椿に視線を向けると、椿はすぐに視線を逸らした。
 
「ち、違いませんけど、違います!」
「どういう事だ?」
「更子さん!」
「ふふ、怒られてしまいました。からかうのはこれくらいにしておきましょうかね」

 椿が更子へ不満をぶつけると、更子は袖で口を隠しつつ振り返った。
 蒼は何が何やらとちんぷんかんぷんなままに二人について行く。

「慣れない土地でしょうし、今日は離れでゆっくりして頂くとして、夕刻ゆうこくにまたお伺いしますね」
「夕刻に、ですか?」
「はい、見て頂きたいものがありますので」
「なんだ?」
「口でお伝えするよりも見て頂いた方がおもし……いえ、わかりやすいのでまた夕刻にお伝えしますね」
「わかった」

 椿は更子の事を怪訝けげんな目で見て、蒼はきょとんとした顔で返事をした。
 
「それではごゆるりと体を休めて下さい」

 離れに着き、更子が戸を開いてくれた。
 椿と蒼は中へと入っていった。
 置いた荷物はそのままだった。

「今日のお昼と夕食はまたお持ち致しますね」
「お昼は宿屋の方が下さったものがあるので、夕食だけお願いします」
「わかりました。夕食は他の巫女がお持ちします。それではまた、夕刻にお伺いしますね」
「わかりました」

 椿が返事をして、蒼は頷いた。
 更子はお辞儀をすると戸をゆっくりと閉めた。

「さ、荷物を整えて、お昼を食べましょう」
「ああ」

 荷物を持って、中の座敷へと運んだ。

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