宴があった翌日。
蒼は久家神社の離れで目が覚めた。
それもそのはずで、蒼は酒が飲めない質だったのだ。
いわゆる、下戸というやつである。
その代わりというわけではないだろうが、椿はお酒が思いがけず好きだったようである。
宴は夜遅くまで騒がしくしていたが、酒に酔って眠り始めた椿をおぶって先に離れへ戻ってきた。
布団を敷いて、椿を寝かしたのだ。
蒼自身の布団を敷こうと、椿から離れようとした時に腕を掴まれた。
「蒼さん、離れたら嫌です」
「え?」
強引に腕を引っ張られ、布団に引きずり込まされてしまったのだ。
その力強さたるや、半妖とはいえ鬼の子。
抵抗しようにも浜太郎にくっつく若藻が如く。
椿は蒼の腕に、いや、身体に手を回してくっついてきていた。
「お、おい! 椿!」
「えへへ、蒼さんと一緒です」
引き剥がそうとしたが、それが良くなかったのだろう。
椿はさらに蒼の身体に寄って、肩の側面に頭を載せる体勢になってしまった。
こうなってしまっては離すにも離せず、それに。
「あおさん……」
安心したのか、満足したのか、眠り始めてしまったのだ。
椿なりに心配していたのだろう。
お酒を飲んでしまったばっかりに心のタガが外れてしまった。
「ありがとう、椿」
寝ているのだから、バレないだろうと。
蒼は椿の頭を撫でた。
すると、寝ているだろうに嬉しそう微笑んできたのだ。
蒼は少し照れくさくなって、すぐに手を離した。
どうせ逃げられないならと蒼も眠る事にしたのだった。
(良かった、椿よりも早く起きれて)
そして、蒼は寝る前と変わらない状況にいる事を改めて認識したのである。
相変わらず、椿の頭は肩の側面に乗っかったままだ。
(なんとか起こさずに……)
頭は容易くどかせられそうだが、問題は蒼の身体に回された右腕である。
右手もしっかりと蒼の着物を握り込んでいる。
起こさないためと思い、右手でゆっくりと離そうとしたところで。
「やっと起きたか、待ちくたびれたぞ」
「ゆ! ……弓月、待って」
「これ! 椿も起きろ!」
蒼が「待ってくれ」と言おうとしたが、遅かった。
椿は弓月に揺さぶられていた。
「……ん? もう朝ですか?」
「そうじゃ。あと寝起きの景色はどうじゃ?」
「どうって? ……え?」
「おはよう、椿」
「あ、あおさっ! え!? こんなに近く……しかも、おんなじ布団んんん!?」
「我が起きた時は驚いたぞ、昨晩はお楽しみじゃったみたいじゃな。更子に言って、赤飯を炊いてもらおうかの」
「い、いらないです! 蒼さんも何もしてませんよね!?」
「ああ……あ」
「え、もしかして……」
「いや、頭を撫でただけだ。他は何もせずに大人しく寝た」
「そ、そうですか」
蒼はうなじに左手を置き、椿は右手で髪を触っていた。
「何を照れ合っておるんだか。これでは我が話しにくいじゃろうが」
「話って、もしかして」
「飛駕山の一件も解決した事じゃし、約束通り。ちゃんと話そう。ほれ、早く話を聞ける準備をしろ」
二人して、同じ布団に座っていたが、慌てて二組の布団を押し入れへとしまった。
その代わりに座布団を三個出した。
弓月一人に対して、蒼と椿の二人で対面で座った。
「先に言っておくが、面白い話ではないからな。蒼は知っている事もあるじゃろうが、椿のために話すぞ」
弓月の前置きに二人は頷くと、弓月は話し始めた。
弓月の生まれ育った故郷も家族も人間に奪われたこと。
妹の「白蘭」と放浪の末に季喬の村に移り住むようになったこと。
季喬の勧めもあり、「斑鳩」という鵺と協力して自警団を作り、村を守っていたこと。
自警団の仲間を増やし、弓月と斑鳩の手が空いた事で番でも作れと言われたこと。
鵺の一族が謀反を起こし、各地に逃げたことで「生骸大乱」が始まってしまったこと。
弓月は大乱の中で、指揮を執り、自身も身を投じたこと。
戦いの間に鼻は効かなくなり、耳も聞こえなくなったこと。
「弓月さん、そんな、ことが……ひっく、あったんですね……ずび」
「泣くのは構わんが、この先の話の方が本題じゃが……大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。聴きます!」
少し呆れ気味に聞いたが、椿が強く返事をしてくれた事で面をくらった。
蒼を見ると、真剣そのものであった。
弓月は自嘲気味に笑い、気持ちを改めた。
(話すと決めて良かった)
「では、少し私の番……夫の話をさせてもらう」
弓月の一人称と口調が変わった事で、今度は蒼と椿が面をくらった。
弓月の表情は懐かしむような柔らかさがありながらも、悲しそうな、辛そうな、苦しそうな、複雑なものだった。
「黒い霧は、私が殺したはずの夫。黒狼妖怪の翡翠に違いない」
『黒狼記 参 山が荒れているそうです 完』
『あとがきのようなもの……』
前作から一年ぶりになりますね。
お久しぶりでございます、蓮木ましろです。
挨拶に困ったので今回からは「お久しぶりでございます」と言うようになると思います。
え?
前に「おはすき〜!」って挨拶するようにすると言ってた?
まぁ、私も生きてる人間ですから、テンションの高い低いはあると思ってもらえればと。
それに今回は書かない方が雰囲気出るかな……と考えてたのですが、書けそうなので筆を取った次第です。
と、先に来年の投稿の話をしておきますね。
執筆以外にも頑張りたい事ができましたので、2026年はそちらに重きを置いて動こうと考えました。
出来れば、2027年7月にも『何でも屋 III』をと思っていたのですが、二足の草鞋とはいかない程に本腰を入れて事に当たらないといけない気がするのです。
想像で組み上がるアイデアと経験から生じるアイデア。
両方あれば、より良いものが書けるとも考えました。
結論、『名もなき世界の何でも屋 III』は2026年7月に投稿できないかもしれない。
という事をお知らせしたいのですよ。
執筆を辞めるという話ではないので、安心してくださいませ。
どこかのタイミングで、読み切り短編も書けたらなと思いますが、それも難しい程に忙しくしていそうなので、首を長くして待って頂けると幸いでございます。
と、ここからはそんな決断をする前の私が書いたものです。
消すのも何なので、載せておきますね。
いきなり、なんですがね。
人生ってなんでしょうか?
本当にいきなりなんだと思ったことでしょう。
まぁ、ちょっとした雑談だと思って、読んでくださいな。
蓮木ましろ的には、人の生きてきた道だと思うんです。
ありきたりとも思えますが。
その人がその人なりに生きてきた。
不意に足を止めて、振り返ってきた時に道になってると思うんです。
人生を振り返ってみて、今いる場所までに自分が歩んできた道。
出来事の中で選択肢を選んできて、自分なりの道がそこにあるように思えたんです。
自分だけしか見えないわからないものだからこそ、そう見えたのでしょうが、唯一無二の道筋だと感じられました。
辛かった出来事も今思えば、今の自分になるには欠かせない意味のあるものだったんだなと思える。
不思議なものです。
その当時の自分からすれば、「何言ってんだ!」と殴りかかられそうなものだけれど。
今となっては、「辛かったね。でも、大丈夫。ありがとう」と抱きしめてやれるくらいに穏やかな気持ちでいるのが今の自分です。
そりゃ、そうです。
辛い出来事も通過点でしかなくて、その出来事があったからこそ、その時の自分が一生懸命に選んで生きてきたからこそ今の自分がここに居る。
こうやって、あとがきを書いている自分もまた然り。
小説を書こうと思えた事、続けてこられた事、辞めるべきかと考えた時に踏みとどまれた事、書く事が楽しいと思えた事。
いろんな葛藤の中で、その時の自分の選択で今がある。
過去の自分に敬意を払い、感謝を述べるのは当然とも言えてきます。
もっと過去に目を向ければ、ご先祖様方にも敬意と感謝を申し上げるのになんの躊躇いがあるのだろうと言えますね。
ちょっと飛躍しちゃいましたが、そんな事が言えてしまうくらいに人生って奥深いものです。
こうして、僕が筆を持って、あとがきを書く。
こんな些細な事ですら、奇跡とも言えてきます。
読んでくれる読者様にも言えるのですよ。
時間の限られた中で、僕の作品を読んで頂きありがとうございます。
面白いものが書けるように、楽しみながらにやっていきますね。
今回のあとがきは、何ともまとまりがないものになってしまいました。
私も読者の方も様々な人生を歩んでいると思います。
時に頑張り、時に怠け、時に休む。
そんな三拍子でやっていけば良いとも思いました。
私自身、何かしら度量を過ぎる事が多いので、それを辞めようとも考えました。
考える事がたくさんで一日一日が長い。
人生を重ねるうちに早くなると言われますが、私の一日は長い気がします。
早く感じる人が何も考えてないって言っているのではなく、私はそう感じるってだけなので悪しからず。
少し長くなりましたね。
では、次のあとがきでお会いいたしましょう。
御身体とお心を大事になさってくださいませ。
お気をつけて生きていきましょうね。
それでは〜。
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