武士を連れて帰ってからというもの、三日が過ぎた。
武士が起きた際に混乱して、蒼や椿に襲いかかるかもしれない。
と更子から言われ、二人は会っていない。
容態もご飯を受け取る時に巫女達から教えてもらうくらいである。
そんな三日間。
蒼は季喬から教わった抜魂術をものにしようと励んでいた。
椿は旅に使うであろう物を洗っては干し、ほつれていれば裁縫道具を借りて、直していた。
そんな日々を繰り返して、四日目の日が暮れている。
二人は離れでゆっくりとしていた。
「そろそろ起きられましたかね?」
「……助けるのが遅かったかもしれない」
「そんな事は!……ないと思うんですけど」
椿が治癒の妖術を施している間は、か細いながらに息はあった。
土汚れでわかりにくかったが、身体のあちこちに打撲の跡があった。
骨が少し浮き上がっていたのを見るに、食事もままならなかったのだろう。
どれだけの間、山の中に居たのかも不確かだ。
並の人間であれば、息を引き取ってもおかしくはない。
「助かってほしいんだがな」
「もちろんです。弓月さんは武士を毛嫌いしてましたけど、人が亡くなって良いことなんてありませんから」
二人して俯いていると、離れの戸が叩かれた。
返事がなくとも戸は開いて、更子が入ってきた。
「お二人とも夕食をお持ちしましたよ」
「ありがとうございます。あれ、更子さん? それに、お手には何もありませんが」
「そのことなんですが、今晩は夕食を共にしてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫……ですよね?」
「ああ、問題ない。あれ?」
蒼も更子に顔を出すと、胸元から弓月が出てきた。
仮の姿で現れたのだ。
「やっと、口がきけるようになったか」
「流石は弓月様。よくわかりましたね」
「武士の気配は気味が悪いから、すぐにわかる」
「それって……」
「はい、ご察しの通りでございます。浜太郎様、お入りくださいませ」
更子に声をかけられた武士。
浜太郎という武士は、鎧はもちろん、刀を差さずに現れた。
甚平を着こなし、手には四人前の御膳を持っている。
蒼よりも少し背が高いこともあり、少し屈んで離れへと入ってきた。
「いやはや、命の恩人とはいえ、妖怪の前で丸腰は肝が冷えるでござるな」
「随分な挨拶じゃな。丸腰でなければ、我が焼き殺しておったじゃろうに」
「き、気を悪くされたのなら、あ、謝りまする! どうか気を穏やかにしてくだされ!」
浜太郎は御膳を逸らして、弓月へと頭を下げた。
それを見て、弓月は鼻を鳴らして、座敷の奥へと進んだ。
浜太郎は頭を上げて、弓月の背中を見ていた。
「浜太郎様、御膳を台無しにしないように気をつけてください」
「おっと、そうであった。夕食を駄目にしてはいけませぬな」
更子が御膳を二個受けとり、座敷へと運ぶ。
「私も持ちます」
「ありがとうございます」
更子の持つ御膳の一つを椿が受け取った。
「御膳を持ってると脱ぎにくいでござるな」
「俺が持つぞ」
「……かたじけない」
浜太郎が草履を脱ぐのにもたついているのを見て、蒼は御膳を受け取って、座敷へと運ぶ。
「そなたが拙者を背負って下さったのでござるな?」
「そうだ」
浜太郎に向き直って、蒼は返事をする。
「でも、俺だけじゃない。弓月も椿も、更子も他にも恩人はいる」
「そうでござるな。感謝申し上げる」
浜太郎は草履を脱いで、座敷へと踏み入った。
「そんな礼はいらん。さっさと起きた事を話せ」
「弓月様も焦れておられますから、浜太郎様。こちらへ」
「う、うむ」
「椿様が持っているのはこちらに。蒼様のは向かい合わせに置いてくださいませ」
「我はさっさと事を済ませたいだけじゃ」
「ふふ、左様でございますね。私としましても、解決は早いに越した事はありませんから、お気持ちご察し致します」
話の合間に御膳を向かい合わせに二膳ずつ置いた。
御膳を前に四人が座り、神座に弓月がいる。
少し苛立っている弓月に余裕のある更子。
そのちぐはぐさに、椿と浜太郎は少し居心地悪そうに座っている。
「もう食べても良いか?」
「そうですね。ひとまず、夕食を食べてもよろしいでしょうか?」
「構わん。腹が減っては聞く耳を持たんじゃろうからな」
そんな場を弁えずに蒼は御膳のことで頭がいっぱいである。
弓月はため息を吐き、更子は裾で口元を隠して笑う。
椿は苦笑いをして、浜太郎はぽかんと口を開けていた。
「では、皆様、お手を合わせて」
「「「「いただきます」」」」
四人共々、声を合わせて夕食を食べ始める。
今日も今日とて五穀米。漬物に味噌汁。
浜太郎に至っては、五穀米をお粥にしたものを食べていた。
食べている次第に、浜太郎は違和感に思うことがあった。
「更子殿、弓月……殿の夕食は?」
「弓月様は必要ありませんから、ご心配なさらず」
「……左様か」
「要らぬ心配をせんで良い」
「こ、これは失礼を」
鼻を鳴らした弓月は更子をじとりと見た。
その視線に気づいた更子はゆっくりと首を振った。
蒼たちに弓月の過去を話していないように、浜太郎に弓月たちの事情は話していないようだ。
弓月はゆっくりと目を瞑った。
「ご馳走様でした」
「蒼さん、早すぎます!」
「普通だが?」
やはり、場違いな蒼に他の四人はまた同じ反応をするのだった。
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