第三十一話 出迎え

 空太くうたと別れてから鳥居とりいまでの間、若藻にゃも浜太郎はまたろうにそれはもうべったりだった。

「みゃぁ〜」
「甘ったるい声を出すでない!」
「浜太郎をあおるとおすの匂いが強くなるからついみゃ〜」
「強くなっておらん! 煽るなでござるよ!」

 そんな声を聞きながらで、あおは少しうんざりしながらもあてなく歩いている。
 方向音痴の蒼が先頭な訳だが、二人のやりとりのせいかおかげか。
 余計な事を考えられなかった蒼はすんなりと鳥居へとついた。

(もしかして、方向音痴が治ったのか!?)

 蒼は眺めながらに嬉しくなっていた。
 狼耳おおかみみみも尻尾も動かして、一人で喜んでいる。

「蒼みゃん、この鳥居で合ってるみゃ?」
「……ああ、間違いなくこの鳥居だが?」
(蒼みゃん?)

 なんで鳥居の事を聞くのか?
 その呼び方は?
 聞かれた事に疑問が二つもいた蒼だが、構わずに若藻は続けた。

「良かったみゃ。弓月ゆみづきに道案内も頼まれてたのを歩き出してから気がついて、あわてて土をいじって一本道にしたみゃ」
「え?」
「いや、だってみゃ? 浜太郎から離れたくなかったから蒼みゃんの前を歩く訳にもいかなかったみゃ。若藻の機転きてんが効いて良かったみゃ〜ね。方向音痴って聞いてたから内心ヒヤヒヤしてたみゃぁでしょ?」
(方向音痴が治った訳じゃなかった……)

 蒼がショックを受けていると若藻が笑った。

「みゃはは、そう落ち込む事ないみゃ。人も妖怪も苦手な事の一つや二つはあるもんみゃ。ところで、ここから降りていくのかみゃ?」
「……いや、合図を決めておいたから鳥居を使う」
「鳥居を使う……みゃ?」

 不思議がってる若藻を放って、蒼は左手を空に向けた。
 右腕から手のひらへ向かうように炎が灯ると、右手から一気に炎を噴射ふんしゃさせた。
 周りの木よりも高く立ち上がった炎は、辺りをさらに明るく照らした。

「こ、これまた、凄いでござるな」
(……蒼みゃんも只者ただものじゃないみゃね。弓月がこの子を選んだのもうなずけるみゃ。方向音痴なのは周りがおぎなえば良いだけだしみゃね)
「これで大丈夫のはずだ。一応、鳥居から離れてくれ」

 蒼が炎の噴射をやめた後、しばらくしてから鳥居が繋がった。
 更子さらこが気がついて、鳥居を繋げてくれたようだ。
 鳥居の向こうには、久家神社ひさけじんじゃの屋根と村が見えている。

「みゃあ〜! 凄いみゃね! 最近はこんな事のできる陰陽師おんにょうじがいるんみゃね」
「この佐々丸さざまるも久家神社の神主殿に術を掛けてくれたおかげで若藻殿を助けられたのでござるよ」
「そうなのかみゃ……やっぱり、弓月の言う通りに久家神社との繋がりは作っておくべきみゃね」
「じゃあ、くぐるぞ」
「みゃぁ〜、こわいみゃ〜!」
「怖くないでござる! 腕にしがみつかなくとも!」
「や、みゃあ。腕にしがみつかないと怖いみゃ〜」

 結局、浜太郎は若藻にしがみつかれたままに鳥居を潜り抜けるのだった。

 
・――・――・

「おかえり、なさい?」
「おかえりなさいませ……」

 鳥居をくぐり抜けると久家神社の鳥居へと出てきた。
 出迎えてくれたのは椿つばきと更子だ。
 見知らぬ妖怪が浜太郎にべったりな事に疑問が浮かんだのだろう。

「ただいま、浜太郎にくっついてるのは若藻だ」
「そ、そうなんですね……弓月さんは?」
「また俺の中で寝てる。勾玉まがたまの妖力を結構使ったからつかれたんだろう」
「なるほど、安心しました」

 椿は胸をで下ろしていた。
 出かける時にいた人の姿が見えないというのは心配になるのだろう。
 弓月にいたっては気にしているそぶりはなかった。
 だが、四日近く寝込んでいたのを知っている椿にとっては、心配になってしまうのも無理からぬ事だった。

「椿殿、更子殿、見てくだされ! これが佐々丸でござる!」
「わ、ひいじぃでもこんな大太刀を打ったことないんじゃないかな」
「おや、曾祖父殿ひいそふどの刀鍛冶かたなかじを?」
「はい。でも、今は鍛冶場がなくなってしまって打ってないんですが……」
「左様か、それは残念。拙者としてはお話しだけでもしてみたいでござるな」
「また機会があれば、ひいじぃも喜ぶと思います」

 浜太郎は更子にも話しかけていたのだが、更子は大太刀を一瞥いちべつしただけだった。
 更子の興味は若藻にあった。
 当の若藻は浜太郎の腕から離れて、久家神社や丘から見下ろす村の風景をながめていた。

不躾ぶしつけで申し訳ございませんが、そちらの方は本当に若藻様でございますか?」
「もっちろん、若藻は若藻みゃ! 巫女みこみゃんがここの神主かんぬしかみゃ?」
「いえ。私はこの久家神社の神主代理、久家更子ひさけさらこと申します。名乗り遅れてしまいまして、申し訳ございません」
「構わないみゃ。代理って事は、神主は留守かみゃ?」
「失礼ながら、飛駕山ひがやまの一件を武蔵国むさしのくに助力じょりょくを頼み申し上げに行ったきり帰ってきておりません」
「いみゃぁ〜……それは若藻のせいでもあるみゃね。迷惑かけて申し訳ないみゃ」
「いえいえ、そんな! 何かご事情があってのことでしょうから……差し支えなければ、お話し聞かせてもらっても宜しいでしょうか?」
「んみゃ! そのために来たからみゃ。蒼と浜太郎にも同席してほしいみゃ」
「わかった」
「拙者は出来れば、若藻殿から離れて座りたく」
「浜太郎が横じゃないと話さないみゃ」
「浜太郎様は若藻様のとなりに座って下さいませ」
「くっ……承知致した」
「では、ご案内致します」
「んみゃ」

 更子を先頭に一同が歩き出した。
 話の蚊帳かやそとであった椿が後ろ髪を引かれるような気持ちになっていた。
 つい、不安になって蒼へと。

「私も同席して良いんですかね?」
「良いと思うぞ。椿も関係してるからな」
「でも、私は今回、何もしてませんし」
「……じゃあ、椿は俺の隣に座っててほしいな」
「え?」
「弓月は寝てるから、椿が居てくれれば、俺も安心だ」
「それって弓月さんが居れば、私は居なくても良いってことですか?」
「いや! そうじゃなくて、そのだな……」
「ふふ、わかってます。じゃあ、隣に座らせてもらいますね」
「もちろんだ」

 不安に感じていたが、椿自身にも居場所があるのに安堵した。

「そう言えば、怪我ありませんか?」
「大丈夫だ。もしかすると、浜太郎が怪我をしてるかもしれないな」
「あとで、させてもらいますかね……一応、蒼さんも診ますから」
「……わかった」

 三人の後ろを蒼と椿はついていくのだった。

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